会津そばの思い出
細く長く生きたいという願いは、年越そばの由来の一つ。昔は、金細工の金粉を集めるのにそば粉を使ったので、「福を寄せる食べ物」として、縁起物扱いされたといわれている。
めん類のなかで私がいちばん好きなのは、そば。そばは、たんぱく質も良質なうえ、そばの成分の一つであるルチンは、毛細血管を丈夫にするので、そばを常食していると、高血圧予防によいとされている。
わが家は、私も家族もみんなそば党で、どこそこにおいしいそば屋があると聞くと、すぐ行くのが慣例であった。
十数年前になるだろうか。母がまだ元気な頃、母のたっての願いで、会津の山奥にあるそば屋に食べに行くことになった。3時間近くも山道をゆられていると、普段車酔いなどめったにしたことのない母も私もすっかりバテ気味になった時、村落が目の前に広がった。
かなり家があるのに、みんな一般の農家の建物で、店らしい構えの家が見つからなかった。
ちょうど昼頃で、お腹も空いてきた。その時一人のおじいさんに出会い、「おいしいそば屋さんってどこですか」と聞いてみた。ところが、この村落全部がそば屋で、「おいしさの点では、優劣はつけられん」との答えだった。
「じゃ、おじいさんの行きつけのところ、教えてくれない」とお願いしたら、案内してくれた。まったく一般の農家で、店らしくないのにびっくりした。だがどこの家の入口にも「屋号」があった。土間を上り、8畳2間つづきの部屋の中央に、素朴な卓台がいくつか並べられていた。
注文を受けながら作るとのことで、一時間弱待たされた。でもこの待ち時間がいい休養になり、苦にならなかった。
コースでお願いしたところ、そばすし、そばがき、そばすいとん、ざるそばなどがどんどん出された。
そば粉100%のそばがき、そばすいとん、ざるそばは絶品だった。そばすしは、のりの上に、ゆでて水を切ったそばをのせ、卵焼きと刻んだしその葉を巻き込んだシンプルなものであったが、食べごたえのある一品であった。
さらに、どんぶり一杯の薬味のねぎが新鮮で、その香りが、そばの味を引き立てた。
ねぎには、めん類の糖質の代謝をよくする働きがある。めん類を食べる時は、薬味のねぎは欠かせないだけに、脇役のねぎにまで行き届いた心遣いが嬉しかった。心もお腹も満足した至福のひとときであった。
コメント
初めまして、この頃よく読ませていただいております。私は父も母も会津の人です。父は東京で働いた40年間も常に美味しい蕎麦屋に通っていました。お話にあるのは桧枝岐村なのでしょうか、今はもう居ない父からその昔聞いていた「具も入っていない蕎麦を箸代わりの白ネギ一本突っ込んですするんだぞ。それが美味いんだよなぁ。」との話。桧枝岐あたりの名物と聞きました。山盛りのネギはその名残かもしれませんね。また「そばはすするんだ、噛むな」とよく言われたものです。未だによく噛んで味わってしまいますが。
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