サージのセーラー服
私の成長期、子ども服・学生服などの上等品は、サージでつくられているものであった。
サージは羊などの毛をつむいだ糸を用いた綾織の毛織物で、色は紺・黒が主、そのほかねずみ、白、しもふり、柄ものもあった。
とても暖かく、長持ちするので、実用的生地として愛用されていた。
語源はラテン語の絹を意味するとのこと。イギリスで一般男女の衣服として用いられるようになったのが19世紀初頭で、それ以前は室内装飾に使われていた。
日本には明治10年頃輸入され、「セルジス」と呼ばれ、主に洋服用に使われていた。その後、平織の国産品が生まれ、「セル」と呼んで和服用に用いられるようになった。
母はこの「サージ」をこよなく愛用していた。
しかし、戦後私が女学校に入学した頃は、サージをはじめ、毛織物の生地は市場にまったくみられず、衣・食・住とも貧困を極めていた。
女学生の制服は、「サージの濃紺」と決まっていたが、新品の制服を着用することは不可能な状況だった。
私の場合、叔母が着ていた学校時代のサージのセーラー服・コートなど制服一式を譲り受け、母が例のシンガーミシンで手直しし、入学式には新品同様のサージのセーラー服を着ることができた。
一方、3歳年下の弟も、新制中学でワイシャツを着る頃、父や叔父のおさがりを母が手直しした手作りのワイシャツで通した。
新しい綿の生地が入手できても、学生時代はすべては母の手作りだった。
弟は、「ワイシャツだけは、既製品のを着てみたかったよ」と今でも言っている。
母がまだ元気でミシンを踏んでいた頃、サージの反物(黒地に赤のエジプト模様)でつくってくれたスーツは、今でも愛用している。それにそでを通すたび、心の安らぎとパワーが自然に湧いてくる。
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