母のシンガーミシン
2008年12月19日 09:00
「シンガー」とは、アメリカの家庭用ミシンの大手メーカー。1800年代半ば、シンガー氏が世界で初めて実用ミシンの製作に成功し、20世紀の初頭には、日本におけるミシンのシェア90%を占めるなど、ミシン市場で圧倒的な地位を占めていた。
私の家にこのミシンがやってきたのは、第二次世界大戦中。終戦直前の私は、小学校の高学年であった。
当時、教室や校庭の約半分は、本土を守る駐屯兵に占領されていた。この頃、ミシンは珍しく、仕立屋さん以外の一般家庭には普及していなかったため、毎日のように、ミシンの見学者が絶えなかった。
そんななか、ある日、小学校に駐屯している兵士2名がわが家を訪れた。
見たこともない、色鮮やかなグリーンの“ラシャ”の生地とミシン糸他を持っていた。
母と2階のミシン室で、長い間話し合っていた兵士たちが帰ったあと、急いでミシン室に行ってみると、タテ十数センチ、ヨコ二十数センチの小旗が散乱していた。
軍の依頼により、母は明日から、この小旗をつくることになったらしい。
小旗は、軍の物資を輸送する時、トラックやジープの輸送車などに立てるとのこと。
母のミシン技術はこの小旗作りから始まり、母のシンガーミシンは、戦中、軍のための小旗づくりで活躍し、戦後は私たち家族の衣服づくりに活躍した。
はるかアメリカから渡来したシンガーミシン。戦後、技術革新の波で、いつしか姿を消した。
母のシンガーミシンは、時代の変遷を彷彿とさせる。
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