月に家を買った話
縁あって、仙台市八幡町の某スタジオで月1回の栄養教室(ボランティア)を開催して2年近くなる。
女性の出席者が多いなか、92歳の礼子さんは特例。常に頭が冴え、夢の多い女性でとにかく、会話が楽しい。かつて、茶道・華道・書道などの先生の経験もあり、またお琴もたしなむ。
私が初めてご自宅にお招きを受け、案内されたそこは、全くの別世界。星座模様のテーブルセンターから始まり、壁のスイッチをONにすると天井に満点の星空が広がり、その星空を眺め、星の物語に花が咲く、至福のひと時であった。
次に訪問した時の話は、もっと私の心を癒してくれた。
例によって星空の下、なんと「月に土地を一坪買い、家を建てた」お話であった。
私は「いつから、だれが、どのようにして住むのかしら?」と聞いてみた。
礼子さんはこう答えた。
「今すぐに住むのではなく、私が死んでから魂だけが永遠に住むのよ。私だけではさびしいから、先生もいらっしゃらない? 魂は小さいから一坪あれば何人も住めると思うわ!」
よく、“死んだら天国に行く”という言葉があるが、まさにこのことを言うのだろうか。
具体的で夢がある。
「私も死んだらぜひ、礼子さんの月の家で住みたいわ」と答えた。
小柄な背格好ばかりでなく、夢を次々に実現していき、94歳でこの世を去った私の母にあまりにも似ていて、身近に感じ、月一度の仙台での教室は、何ものにも変えられない心の癒しになっている。
星空のある部屋を自室とし、いつか住む月の家を一幅の絵にして飾っている礼子さん。
娘さん夫婦、孫・ひ孫たちと同居し、週1度デイサービスを利用して、元気で人生を謳歌している。
ある米国の宇宙飛行士が初めて月面上陸に成功した時の2種類の記念切手が手元にある。
サンフランシスコの郵便局で長蛇の列に加わり、やっと入手した2シート。今はこの2シートがバラバラに減ってしまったが、それを眺めながら、礼子さんにあやかりたいと、これからの自分流の人生を考えている。
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