杖をつく、つかない
杖は「ころばぬ先の杖」というカルタ言葉として子どもの頃からなれ親しんできた。また、登山が好きだった私には、歩行補助の用具として杖は、なくてはならない貴重なものであった。
ところが、わたしの母をはじめ、周囲の高齢者には杖の助けを拒否する人が多かった。
よく、友人からも「杖を利用するよう、あなたから説得して!」と頼まれることが多かった。
そんな頼まれごとの際は、こうお話ししてみる。
「杖は実用的な機能もあるけど、とくに高齢者のもつ杖は、社会的地位を示す役割も担っているの。
とくにヨーロッパでは、貴族や軍隊の指揮官が長短の杖を持っていることや、映画でも社会的地位の高い人などが杖を持っている光景が度々みられるわ。だから杖は、利用法しだいで、その人のファッションにもつながり、高齢者の威厳を示す大切なものなのよ!」
月に家を買った話
縁あって、仙台市八幡町の某スタジオで月1回の栄養教室(ボランティア)を開催して2年近くなる。
女性の出席者が多いなか、92歳の礼子さんは特例。常に頭が冴え、夢の多い女性でとにかく、会話が楽しい。かつて、茶道・華道・書道などの先生の経験もあり、またお琴もたしなむ。
私が初めてご自宅にお招きを受け、案内されたそこは、全くの別世界。星座模様のテーブルセンターから始まり、壁のスイッチをONにすると天井に満点の星空が広がり、その星空を眺め、星の物語に花が咲く、至福のひと時であった。
ルージュにイヤリング
私の専門は栄養学だが、介護や福祉の研修もしてきた。その経験を母の介護に役立てたいという思いがあった。たとえばそのことで思い出すのがアメリカでの研修である。
私がはじめてアメリカのUCLA(州立カルフォルニア大学ロサンゼルス校)に夏期研修に行ったのは、今から十数年前のこと。
すでにその頃からアメリカでは、福祉や介護の分野でアロマテラピーやカラーセラピーの応用が研究され、実践されていたため、私は幸運なことに長期療養者の心を癒す香りや色の使い方などを実践的に勉強することができた。
母フジさんの介護日誌
介護日誌は私が留守をするときにヘルパーさんに伝えたいことを書き留めた「連絡ノート」としても大いに役立った。
また、逆に、ヘルパーさんからの連絡事項が記入されているので、主治医も身体状態や病気の早期判断に大いに利用した。
例えば、「食事介助でベッドを起こした時、フジさんの腰がうまく折れないときがあります。そうすると、体に圧力がかかり苦しくなったり、骨折の不安も起こります。体を起こしときは上半身を少し前に起こしてあげると、圧力が分散して楽な姿勢がとれると思いますのでそのようにして下さい」ヘルパー○○。
こうして、それぞれがアイデアを出し、工夫を重ねることによって、介護の技術が上がってゆく。