会話がごちそう
精神科の和田秀樹先生の著書『いつまでも若さを保つ生き方』(PHP研究所)によると、若々しさを保つためには、笑いを生活のなかに取り込んでいくことも一つである、とデータを示しながら「笑い」の必要性を説いている。
この本はとても説得力があり、何よりもまずおもしろい。
かつて母が不満に訴えたのは、「今日は会話が少なくて、笑えることが何もなかったわ」であった。昼間ヘルパーさんたちが忙しく、会話が十分弾むことなく過ぎ、私の帰りも遅くなったときがそう言われることが多い。
食事に関しては、私が作り置きしたりしたものがほとんどだったので、母の嗜好を満たし、あまり不満はなかったようだ。しかし、いろいろな人と会い話をすることが好きだった母は、会話や笑いのない生活が何よりもつまらないものであったに違いない。
私がどんなに遅く帰っても、母が狸寝入りをしていることを知っているので、必ず耳元で「タダイマ」とささやいた。案の定、「お帰り! 女の子がこんな遅くまで…」と、不満そうにささやく。でも目は輝いている。
私は、「お茶しない?」と誘い、温かい麦茶で乾杯をする。
会話の楽しさは、互いに応じ合い、場合によっては声にならない反応を心の耳で確かめながら話を続ける。
母は「もう夜中だから、声を小さくして」と言いながら、「あなたは子どもの頃から小柄なのに声だけは大きくて、特に泣き出すと長泣きだったから全く手を焼いたわ」と笑い出す。
私が、「そのこと何度も聞いているわよ」と言うと、「あら、私も歳なのかしら」とまた笑う。
こうして何気ないおしゃべりはストレス解消の一助となっていたに違いない。
だから、訪問入浴サービスの際、介護士さんに「フジさんは娘さんより肌がきれいネ」などと言われながら、94歳の長寿を全うできたのかなと、今ふと思った。
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