記録は宝の山
子どもとは、無邪気でかつ勝手なもので、親に育てられたときの記憶があまり残っていない。
ところが、親の子育て日記をみると、親がいかに自分を大切に育ててくれたかがわかる。病気で苦しんでいたとき、進路で悩んでいたとき、いちばんあたたかい愛情を注いでくれたのは母親であった。
子どもを育てるのはたいへんでも、親は子どもから日々楽しみを得ている。「子育ては自分の生きがい、子どもさえ元気でいれば何も要らない」とは母の口癖だった。
子育てをしなかった私にとっては、母の介護が点から授かった貴重な時間と考え、「介護は楽しみながら、子育てのように」すれば、きっと介護した日々が後ですばらしい思い出になるのではないか、そしてその日々を残しておきたいと、記録を綴り始めた。
4年間で11冊、まさに宝の山である。
みんな美肌宣言
私が母の介護で特に気をつけたのは、褥瘡(床ずれ)をつくらない、便秘をさせない、尿路感染症にさせない、の3点。長く床に伏せっていると、体重による圧迫が長時間皮膚に加わり、皮膚組織を酸素不足と栄養不足が起きる。その結果、褥瘡になると言われている。つまり、褥瘡は栄養不良の状態である。日頃から、消化吸収のしやすい「高タンパク・高ビタミン・高ミネラル」食と水分を十分補給することが大切である。
こうした食事は、おとしよりだけでなく、介護する人にも必要なもの。特に、皮膚細胞を守ることは、感染症予防にもつながる。
護送車みたい!?
まだ母が比較的元気だった頃、デイサービス(通所介護)のお誘いを受けた。
そこである日、母と弟と私の3人で、どんなところか1日見学体験に行った。
郊外の田んぼのなかに突如、広くて豪華な建物が見えてきた。初めて見るわが町のデイサービスセンターである。
母は、「まるでおとぎの国の建物みたいね。どんな人がいるのかしら、と、早くも興味津々。
顔見知りの介護士さんたちに迎えられ、施設のなかを見学した。
当時、デイサービスといえば送迎専用のバスで施設に通い、集団レクリエーションで一日過ごし、昼食や入浴サービスが受けられるところと思っていたが、その辺りの設備は申し分なかった。
ところが、母はといえば。
会話がごちそう
精神科の和田秀樹先生の著書『いつまでも若さを保つ生き方』(PHP研究所)によると、若々しさを保つためには、笑いを生活のなかに取り込んでいくことも一つである、とデータを示しながら「笑い」の必要性を説いている。
この本はとても説得力があり、何よりもまずおもしろい。
かつて母が不満に訴えたのは、「今日は会話が少なくて、笑えることが何もなかったわ」であった。昼間ヘルパーさんたちが忙しく、会話が十分弾むことなく過ぎ、私の帰りも遅くなったときがそう言われることが多い。