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落合敏の「介護は楽しみながら」

私が在宅介護に踏み切ったわけ

「子は親に育てられ、親は子に介護される」
 この話は私の大好きな言葉。介護は気張って大上段に構えても、介護する側が疲れるし、介護される方はもっと疲れてしまう。
 自分の人生でいろいろなトラブルがあったときは、「母はこうしてくれたっけ」と思い浮かべると、自然に自分のすべきことがわかってくる。
 介護は理屈ではなく、条件反射であり、本能だと思う。

 母が寝たきりになったのは、浴室で転倒したときの骨折がきっかけである。
90歳を間近にした母にとって、3度目の骨折だった。1度目、2度目のときも入院治療をしたが、当時はまだ体力もあり、術後の経過も良かったせいか、順調に回復した。
 しかし、今回は入院も30日を超え、さらにリハビリも、となると、問題が多すぎる。
 母のような患者が病院で長期入院するメリットは数多くある。医療・介護スタッフは心強い存在だし、充実した医療設備なども家族にとっては安心材料である。しかし、病院では万人向けの介護体制しかとれない。いたしかたがないこととは言え、特に食事の問題は、母の闘病生活において見逃せない問題であった。長期入院となると、ベッドに横になったままなので、ますます食欲がなくなり、体力は落ちるばかり。
 母は、「私が死ぬときは絶対自宅でね」と言うようになった。私も、「絶対病院で死なせるようなことはしないから、安心してね」と母に言い切った。そこで、在宅介護を決意した。

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 主治医も理解があり、1か月2回の往診と、1日おきにリハビリと健康チェックのために看護師を派遣してくださることを約束してくれた。
 地域の社会福祉センターからは、毎日、朝・昼・午後3時、夕方と、4人のヘルパーさんが代わるがわる来てくれることになり、特に排泄介助と食事介助をお願いすることにした。

 退院後の母の生活は、自宅1階の南東の角部屋で始まった。そこは、わが家の一等地。日当たりや風通しが良くて、庭の草花も楽しめる。おしゃべりやお茶をするのも最適。たちまち食欲も出て、母はみるみる笑顔を取り戻した。
 朝は母の「いってらっしゃい」の言葉に送られ、職場から帰宅すれば「お帰りなさい。おつかれさま」の言葉で迎えられ、それだけで充実した日々だった。
 「親と時間を共有できる」というのは、こんなにも幸せな気持ちに浸れるのかと、改めて親子のきずなを実感した。


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プロフィール
落合敏
(おちあい とし)
栄養学博士。千葉大学講師、茨城キリスト教大学教授などを経て、現在NHP OCHIAI Office代表。「おもいッきりテレビ」をはじめメディアに出演多数。2000年~2004年の4年間、実母を介護した経験をもとに、介護者の視点に立ったお年寄りの食事に関する書籍や介護日誌をまとめたものを上梓。
栄養学博士 落合敏の栄養学研究所 http://www.nhp-ochiai.jp/
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