母の優しさ 強さ
亡き父が闘病中、母とタッグを組んで父が入院する病院へ交代で泊まり込んだことは以前のどこかに書いた。時系列で順序よく記してこなかったので、どこで書いたかまでは把握できない。まあ、一つひとつを丁寧に読み返せば発掘はできるのだが、今回の内容とは全く異なるので無視。
父は大部屋。6人部屋に入院していた時期が一番長かった。二人部屋の頃もあったが、入院中に父が院内感染し、院内感染の源が病院側にあるということで病院側から提供してくれたものだった。
10ヶ月。6人部屋。となると、かなり大勢の人と関わることになる。救急で運ばれてきて、2日もしないうちに復活退院などという同室者もあった。もちろん、数ヶ月を同室で過ごし、亡くなられていった方も数名いた。
実は、以下のようなこーーんな感じで母と向き合い、ゴールデンウィークまっただ中を過ごしていたら、当時の母の優しさが蘇ってきたので、これを書かないと、となった次第だ。
たぶん、5ヶ月ほどだったと記憶する。同室であったのは。とはいえ、かれこれ20年ほど昔になってしまう話なので曖昧であること間違いなし。ただ、大雑把ではあるが、肝心要な所は絶対に忘れていない。今も脳裏に焼き付いているからこそ、書こう、となったのだから。
丹下さん(仮名)という同室者がいた。漫画・あしたのジョーの丹下段平オヤジをイメージしてもらうと困る。身長高くイケメンだった。何故か? オレは彼に可愛がられた。
オレは当時、35歳前後。20年前の話だから。丹下さん、背中に般若の入れ墨を入れていた。スジ彫りではなく、肩から背中にかけて濃い緑と赤を中心に描かれていた。丹下さん、再生不良貧血という難病指定の病で入退院を繰り返していたのだ。
丹下さん自身の口から、若い頃はかなりのヤンチャだったとのこと。流れ流れて、原子力発電所組み立て工程の工事現場でも長く働いたことも教えてくれた。
今振り返れば、もっともっと詳細に聞いておけば良かった。原発のことなど、当時のオレにはどうでも良かったことだから。
だけど一点、彼の口から発せられた事案でどうにも忘れられないことがる。
「野田君、原発立地の最前線で働いているヤツ等の多くは外国人やからな。忘れんと覚えときや」
事実を、オレが知るよしもない。が、丹下さんは関西方面出身の人だった。
時々、病からくる不調でストレスが爆発し、看護師を怒鳴った。ヤンチャだった彼の爆発は半端ではなかった。手までは上げはしなかったが、爆発時の表情は背中に彫ってある般若以上。オレも恐かった。だけど、気の合う同室者はオレだけ。
「野田君、あいつ等皆、ワシをなめとんのや。呑みに行こか?」
絶対に呑んではいけない人なのだけれど、恐くて注意喚起などできない。オレは即答。ハイ。だけど、楽しくもあった。
しかし、丹下さんの病は悪化の一方。侠気がポリシーであるのに、紙オムツをする事態となった。肛門付近に巨大な出来物が発生したことが紙オムツにする直接の所以だった。
「野田君、ワシこんな様や。本当。もう死にたいわ」
泣き言も増えた。
この紙オムツにする以前の少しの間、母が、膿が付着した丹下さんのパンツを手洗いしてから洗濯機で洗っていたのだ。
「野田君、ええお母ちゃんやなあ! 大切にしいや。返事せんとあかんがな?」
母が傍で笑っていた。
今になってだから強く思う。母はスゴイ!
他人様の膿の付着したパンツを手洗いしていた。それも1回2回ではないのだ。
なぜそこまでするのか? 聞いた記憶が鮮明に蘇る。母の返答も鮮明だ。
「あんた(オレ)が可愛がってもらってるが!」
厳しく、凛とした表情がオレの目前にあった。
母、和ちゃんは優しく強かった。
丹下さん、父が逝った数ヶ月後に病院の個室で旅だった。
彼の言葉が改めて蘇る。
母を大切にしないとな。
5月3日朝 黄砂舞う中デイサービスへ出陣
コメント
北海道では今ようやく桜が見ごろです。
和子さん、立派です。ここに母あり、読んで涙があふれました。私もそんな母になれるかしら?2人の娘は学生で将来の夢に向けて奮闘中…せめて一人前になるまで厳しく行きたいと思います。
10数年前母子家庭だった頃は生きるのにイッパイイッパイで放ったらかしだったから、親の言う事を聞かなくなっていますが…義理と人情と常識は教えておかなきゃと。
ミキさま
お嬢様二人、それはもう大丈夫でしょう。
親の言うことを聞かない?
それは、一人で、独りでも生きていけるのだから。
もう、シッカリと人生の杭はアチコチで打たれてますよ。
一番大事な、親離れできている。
ミキさんが苦労された姿、彼女たちはキチンと脳裏に焼き付けてますよ。
夢、実現後、
三倍返しくらいで戻ってくるんじゃないですか?(^。^)
北海道ですか?
札幌 すすきの しか知らない私。
呑んでばかりの、20歳台前半の思い出です。
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