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野田明宏の「俺流オトコの介護」

ガラクタの中から愛が!

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 母が段々に歩けなくなり、万年床周辺が母の活動の場となった頃。母はガラクタ探しに勤しむことが多くなった。勤しんでいるのかは不明だけれど、一所懸命? 夢中だったことは理解できた。もっとも、引き出しに入っているモノを万年床に錯乱させるだけ。結局は、オレが後片付に勤しむことが日課になった。
 とはいえ、日々、こんな作業が日課ではオレも頭に来る。母はまだ失語はしていなかったので、言葉は過激に。
 「和ちゃん、ええかげんにせえよ?」
 「あのなあ、わたしゃ大事なモノを探しょんじゃ」
 「後片付け、できんくせに偉そうに言うな」
 「うるさいなあ」
 本当のところはもっと凄まじい。ただ、岡山弁での口論なので、口語をそのまま記すと岡山以外の方々には意味不明。なので、雰囲気だけ。
 で、うるさい、とまで言われては幕引きにできない。感情は、理性などスコーンと駆逐してしまう。
 「ヨッシャ! よーーう分かった。このガラクタ、ワシがこれから全部捨てちゃる」
 オレは、母を力尽くでどかした。軽い。母が万年床へ転がった。オレは本気でガラクタを大型ビニール袋へ次から次へ放り込んだ。
 母が叫ぶ。
 「やめてー」
 「うるせえ」
 母が泣き始め、新たに叫んだ。
 「死んだ方がましじゃー」
 しかし、オレも感情が高ぶり、勢いが止まらない。いや、勢いは増すばかりだった。
 そうこうしてると、少し大型の饅頭箱が。シッカリとビニール紐で縛られている。母だ。母は、梱包作業も仕事で請け負っていたから上手い。興味が湧いた。
 あまりにシッカリ梱包してるのでハサミで紐を切った。蓋を開けた。
 すると、中には、オレがインタビューを受けた新聞記事やらオレの初めての著書。まだ書くことのプロでない頃、オレは盛んに新聞・雑誌に投稿していた時期があり、そこで掲載された小さな記事の切り抜きまでもがあった。
 つまり、その箱の中は、オレの過去ではち切れんばかりだったのだ。
 その箱を母に差し出し
 「大事なモノはこれか?」
 「どこにあったん?」
 母の笑顔が炸裂した。愛おしそうに、一つひとつを確認している。
 「和ちゃん」
 母を後ろから抱きしめた。涙もチョッピリ流れた。そして、母の好きなようにしてもらうことにした。
 翌日、母のガラクタ探しが始まった。母の大事なモノであるはずの饅頭箱は全く無視されている。饅頭箱の箱を空け、中を見せながら母に問うた?
 「和ちゃん。大事なモノはこれじゃろ?」
 「違うよ。そんなんじゃないよ」
 一瞬の間。
 そりゃそうだ。探しモノを明確に脳がキャッチできているのなら、アルツハイマーなどではないはず。
 オレは完璧な勘違い息子だった。でも、まあ良い。母がオレを愛していてくれたことに間違いない証明を発見できたのだから。
 突然、可笑しくなった。笑った。大声で、ひとり笑い続けた。

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コメント


 涙を流しながら、笑えました。
 これも、書くプロのなせるわざか、いえいえ、母がおとこまえさんを、おとこまえさんが母を想う素直な愛を感じ、うらやましくさえ思いました。うちの大学生の息子なんて、最近は、私の事を飯炊きおばさんか、掃除のおばさんのどちらかとしか思っていないようで、日々、空しいかぎりです。それにしても、おとこまえさんが、おかあさんを想う心は、どうして少しもぶれないまっすぐなものでありつづけられるのですか?それを聞く私って、情がうすいから理解しづらいんでしょうね。私がお世話させて頂いてるのは義母。いわゆる姑。どうしても”愛”がない介護になってしまいます。ある日主人が息子に言いました。「お母さんは、やる事はやるけど心がないんだよね~。」・・・・8年たって言うなんて・・でもまったくははずれてないかも・・・私も”まなざしかいご”読んでみようと思います。こころって頭で考えるんじゃないんだろうしかわれるんでしょうか


投稿者: セブン | 2010年10月01日 12:51

セブンさま

それはそれは ありがとうございます。
涙を流しながら笑っていただけるとは、
ライターとして、とても励みになります。
しかし、息子さんは正常に大人になっていると確信します。
どこも、そんなもんですよ。
その空しさ、いつか喜びにかわりますから。
息子と実母というのは、息子側からすると 照れ が邪魔して素直になれないんです。
そのくらいの距離感が自然で良いのでは?
でも、ご主人はいかがなものか? と。
心がない
発言は許せないですね。
では、入魂して自分でやって と。
だけど、こんなこと書くと、
私の主人のこと、そんな風に言わないで(`ヘ´)
ってなこともあるので、スミマセン。
だけど、義母さんは難しいですよ。
これも、だいたい、どちら様もそうですよ。
まなざしかいご
ぜひ、お勧めですが、藤川さんのご母堂さまとのことですから、義母さまの関係でとなると?
結論。
セブンさま。
今のままでヨロシイのでは(^_-)-☆


投稿者: 野田明宏 | 2010年10月01日 19:22

私も時折自分のことを 思いやりのない情の薄い人間のように思える時があります。
いつも実際に起こった出来事に驚くことはなく
落ち着いている自分がおります TVや本では感動し 涙まで出てくるのに 母の話にはひととうり聞いてはいるが 動揺することはなく またいつものおなじはなしか?で終わってしまう
感謝の気持ちがないからだ とよく言われます

こんな私も 心がない 人間なのでしょうか?


投稿者: 笑顔のまっ子ちゃん | 2010年10月16日 14:55

笑顔のまっ子ちゃんさま

時間差ありのコメントでしたから、
危うくスルーでありました。

だけど、そう自分自身を捉えて考察する人に、
心がない
わけないですよ。
私、いつも思うのですが、
在宅介護は、結局、

の問題となっていくんですよね。
私、介護雑誌は読みませんでしたが、
仏教関係の本ばかりを読んで、
自分の心を癒しておりました。
今は、介護技術について、
かなり勉強しています。


投稿者: 野田明宏 | 2010年10月17日 11:42

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
野田明宏
(のだ あきひろ)
フリーライター。1956年生まれ。約50カ国をバックパックを背負って旅する。その後、グアテマラを中心に中央アメリカに約2年間滞在。内戦下のエルサルバドルでは、政府軍のパトロールにも同行取材等etc。2002年、母親の介護をきっかけに、老人介護を中心に執筆活動を開始。2010年現在、83歳になる母と二人暮らしで在宅介護を続ける。主な著書は『アルツハイマーの母をよろしく』『アルツハイマー在宅介護最前線』(以上、ミネルヴァ書房)など多数。『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)にて、「僕らはみんな生きている」連載中。
http://www.noda-akihiro.net/
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