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野田明宏の「俺流オトコの介護」

恥ずかしくも哀しいお話

 介護とウンコは切っても切り離せない。と、明言しても異論を挟む人は滅多にいないはず。
 在宅であろうが施設であろうが、身内であろうが他人であろうが、お年寄りの排便処理と初めて向き合うとき、これはやはり勇気と気合いが必要となる。
 「赤ちゃんと同じでしょ?」
 とオレに口を尖らせた若い女性もいたが、絶対に違う。あくまで一般論だが、赤ちゃんを世話するのは実母。母性本能にもビビッとくるはず。我が子のウンチと接して、
 「良い子じゃなあ! イッパイ出たねえ。ありがとう。ママ、スゴク嬉しい\(^O^)/」
 などと独り微笑みながらウンチ処理をしている光景が目に浮かぶ。もっとも今日、これが一般的ではないのかもしれないが、オレが知る周囲の世界ではそうだった。
 では、お年寄り&大人はどうなのか? やはり臭いもキツイ! 赤ちゃんのように可愛いウンチでもない。なにせ身体が大きいので、赤ちゃんのようにお尻をヒョイと持ち上げてオムツ交換するわけにもいかない。とにかく、排便処理と記せば同じだが、似て非なるモノなのであります。
 ヤレヤレ。ウンコ論の前置きが長くなってしまった。
 で、オレの介護も9年目になってしまったが、超恥ずかし事件を赤裸々に告白したい。これもウンコ関連。母のではなくオレの…>_<…。
 まだ、母がなんとか数歩は歩ける頃だった。数歩。実は、これが介護者にとってはスコブル厄介なのだ。事件が起きる前にも、母は後方転倒し頭を打ち4針縫ったばかり。蛍光灯のスイッチを入れる紐に掴まり、全体重を支えようとしたのだから無理があった。紐は切れ、後ろに落ちた。
 そんなこんながあり、オレはオレ自身の排便処理にも困った。オレは、トイレに行ってパンツを下ろし、出して、拭き、パンツを上げる。全てをちゃんとこなせる。オレってエライかなあ?
 冗談を言ってる場合ではない。当時、母とオレの布団は万年床。今も基本的に変わりはないのだが、母の万年床は電動ベッドになった。その万年床にちゃんと寝ていてくれれば問題は一切ない。ただ、起き上がろうとして、運良く立て・歩けたとしても数歩のみで前に滑り込むようにして落ちる。
 母とオレの万年床からトイレまでには三畳間が一つあり、母の位置からは5メートルはないはず。オレは事件の日、母に何度も言った。トイレに向かう前に。
 「和ちゃん、ちゃんとここに寝とくんで。頼むでホンマに!」
 母はこの頃、まだ失語はしておらず、「ふん」ぐらいの相づちは打った。信用はできなかったけれど、オレの忍耐も危うくなってきていた。オレの肛門は膨らんだり萎んだりを繰り返していたから。
 エイヤッ! オレはトイレへ。和式。一度は屈んだものの、心配なので尻だし後ろずさりして再確認。寝ている。ヨッシャ! GO!!
 オレのウンコは勢いよく出始めた。途端、ガシャーンという音。母だ。どうにもこうにもならない。ウンコを出し切らないまま、拭くことさえできずオレはトイレから出た。母がいない。横を見る。すると、母がガラス戸に倒れそうになりながらもしがみついている。ホッ!
 「和ちゃん、頼むで! ちゃんと」
 などと愚痴っていたところへ、
 「おはようございまーーす」
 元気のよい声が響いた。デイサービス職員の声。そうなのだ。母のデイサービス出陣のときなのだ。
 準備はしてあったのでそのまま送迎車へ。すると、職員から不穏な声。
 「和子さん、便の方は大丈夫ですか?」
 臭うのだ。オレの出し切れなかったウンコを、母が粗相していると。当然だろう。まさか、今このとき、出し切れなかったウンコのことでオレの肛門も頭もはち切れんばかりだと想像できるわけなどない。
 「和ちゃん大丈夫だから今日もヨロシク」
 デイサービス職員の怪訝な顔を他所に、オレは最速でトイレへ。
 全てを終え、オレはオレのパンツを手洗いし、洗濯機へ放りこんだ。
 恥ずかしい というより 哀しいお話でした。

0910.png
トイレから見て、三畳間、万年床、母の電動ベッド

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コメント


 先日の講演興味深く聞かせて頂きました。
冒頭のうんこの話はとてもおかしかったです。
たしかにショートステはいろいろ問題あると思います。
でも、どこの事業所も頑張られているはずです。
仲良くおつきあい下さい。
今後も頑張ってください。


投稿者: 岡山ウラン | 2010年09月11日 14:09

岡山ウランさま

先日の講演に来てくださったのですね。
ありがとうございました。
まあ、西川ヘレンさんの前座という形でもありましたが、
私の講演については90点くらいかな? と。
550人の来訪者。
気持ちよくスカッとさせてもらいました。
ハイ。ショートステイ他皆さんとも 仲良くいたします。


投稿者: 野田明宏 | 2010年09月13日 17:07

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プロフィール
野田明宏
(のだ あきひろ)
フリーライター。1956年生まれ。約50カ国をバックパックを背負って旅する。その後、グアテマラを中心に中央アメリカに約2年間滞在。内戦下のエルサルバドルでは、政府軍のパトロールにも同行取材等etc。2002年、母親の介護をきっかけに、老人介護を中心に執筆活動を開始。2010年現在、83歳になる母と二人暮らしで在宅介護を続ける。主な著書は『アルツハイマーの母をよろしく』『アルツハイマー在宅介護最前線』(以上、ミネルヴァ書房)など多数。『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)にて、「僕らはみんな生きている」連載中。
http://www.noda-akihiro.net/
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