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野田明宏の「俺流オトコの介護」

母と一緒にいたい

 前回の流れから、今回は認知症・寝たきり。要介護五の“母の現況”について記していこうと予定していたのだけれど、次号で詳細に書く。
 実は、どうも納得できないことと向き合うこととなり、自問自答しているうちに腹立たしくなったからだ。
 でだ。どの世界にも論客という方々が存在する。いかにもその世界をリードしパイオニアのように振る舞う。介護の世界にもそういう方が存在するように思えて仕方ない。介護の実践をしていないにもかかわらずだ。
 もっとも、オレなどからすれば魑魅魍魎・摩訶不思議な介護保険制度を網羅している人が、介護保険の良さや不備を語るなら積極的であって欲しい。
 さて、オレは認知症の母をかれこれ丸八年という歳月、文字通りに寝食をともにしながら介護してきた。在宅介護の典型だと確信する。
 オレが在住する政令指定都市である岡山市では、介護保険を利用しながら継続して半年以上、在宅介護した家族には介護者慰労金が四万円支給される。要介護三以上であることが前提だが、年度ごとに申請できる。ありがたいことだと感謝している。
 ただ、オレの身近にいる人から、以下のような言葉を投げかけられることがある。
 「野田さん、もうお母さんの介護も八年じゃろう。そろそろ自分自身のことも考えんとなあ! お母さんにしたって、息子であるあんたに苦労はかけとうはないはずよ。もしお母さんが元気じゃったら、施設入所を考えるんじゃないかなあ? 息子の人生を犠牲にしてまで母親というのは生きていこうとは思わんからな(岡山弁でスミマセン)」
 そして、新聞・雑誌等での論客の勢いは凄まじい。
 「口からモノが入らなくなったら人生は終焉と考えるべきでしょう。自然に逝かせてあげるべきです。延命ばかりにとらわれていたら、誰が医療負担を賄うのですか?」
 身近な人の声、論客の意見。確かにごもっとも。
 とはいえ、オレには感情がある。母が弱れば弱るほどに、今まで母から授かった恩が蘇る。
 端から見れば、オレの人生など幸せには見えないかもしれない。しかし、母には感謝ばかりだ。
 生まれてきて良かった。
 と、オレは素直に思えるから。産んでくれて、本当にありがとう。だ。
 認知症在宅介護。それは簡単なことではない。胃から栄養を入れる母。失語もしているからコミュニケーションもできない。
 でも、欠伸もするし微笑むことだってあるのだ。在宅介護者にとって至福の瞬間でもある。
 強く思う。オレは、母とまだまだ一緒にいたい。

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コメント


涙。
言葉が無いです。
微力ながら、介護者として心して励まさしていただきます。
語り合いの場、発言の場、私たちの想いが形になる介護(福祉)でありたいと日々、夢見ている一人です。
元気に、行きましょう!!


投稿者: ゆかちゃん | 2010年06月11日 10:13

ふむ・・・
「もしお母さんが元気じゃったら、施設入所を考えるんじゃないかなあ?~」という意見には疑問符が私はつきます。
まず和ちゃんが「元気」なら施設になんか入りたがらないでしょう。野田さんの出された本とかから、和ちゃんの生きてきた道を考えてみると、体が不自由になってもひとりで家を守りづけているのではないでしょうか。

それに「元気」じゃなくなると母親でなくなるのかな。認知症になればすべての記憶がなくなるのでしょうか。
私はそうは思いません。
「私の息子」と認識できなくても、女性の母としての感覚では息子と感じているのではないでしょうか。世の中でいちばん安心できるひとと一緒にいると感じていると思いますよ。
なによりこの写真の顔が語っていますよ。


投稿者: まつ | 2010年06月11日 14:37

余談ですが、「口からモノが入らなくなったら人生は終焉と考えるべきでしょう」という意見はお粗末です。口から食べられなくてもがんばっておられる方は沢山います。医療負担の話は関係ないです。短絡的すぎです。


投稿者: まつ | 2010年06月11日 14:56

ゆかちゃんさま

更新早々の時間でのコメントありがとうございました。
ハイ
元気でまいりましょう!


投稿者: 野田明宏 | 2010年06月11日 15:25

野田さん、それはほんとによくわかります。何がこたえるかといって、身近な世間の声や視線ほどこたえるものはありません。称賛の笑顔の背後にこんな否認が潜んでいるのかと知った時は自分のお人好しさにうんざりしました。ただ、ふと考えるとそういうことを影に陽にいうのが高齢のばーさんやじーさんだということに気がつき不思議に思いました。ここには違う謎解きがあるようにこの頃は思っています。
一方、功利的な社会運営の立場からなされる執拗な攻撃に対しては果敢な反撃をすべきだとこれまたこの頃思い始めています。今回の記事、野田さんの勇気ある発言だと思いました。やっぱり野田さんは男前ですね(^^)v


投稿者: miyata | 2010年06月11日 17:35

まつさま

剛速球なコメントありがとうございました。
私の本も読んでいただいているとのこと。
となると、私のあれやこれやもご存じ。
そうであるなら、益々感謝です。
私も、母が病を患う以前から、私と一緒が一番、と思っていたと確信はしているのですが、色々と声が聞こえてくると弱気になったり。
改めて、ありがとうございました。
このまま踏ん張りつづけます。

miyataさま

今回もコメントありがとうございました。
いえいえ、文面の男前はmiyataさんにはかないません。
顔そのものは私かな? 推察でありますが...
で、我々介護する立場は、お世話になってます、ばかりでは介護者として被介護者に申し訳ないと思います。
我々は、時に、筋が通ってない介護職、看護職、医師に対して反撃しないと被介護者、つまり私の場合であれば母に面目が立ちません。
介護者が反撃姿勢を示すということは大変なストレスになるに違いありません。
しかし、私も必要なことだと。
お互いファイトしましょう。


投稿者: 野田明宏 | 2010年06月11日 19:34

野田さんに初めてお会いしたのが2005年6月8日(水)。介護初心者?の私に、「アンタはウンコが触れるか!?」……投げかけられた言葉が強烈でした。

あれから5年。きょう、「野田さんに会いなよ」とアドバイスしてくれた人に、この連載を教えました。


投稿者: KOBUTA | 2010年06月14日 19:21

KOBUTAさま

そうでした。
そんなことをキッチリ平気で言う人でした 私は。
今も継続中。
N.Sさん。
福岡から岡山へ取材に来られたときですね、私がお会いしたのは。
今でも、携帯にアドレス入力したままですよ。
電話してみようかな?


投稿者: 野田明宏 | 2010年06月15日 14:26

 まったく他人に何がわかるのでしょうね。

〉もしお母さんが元気じゃったら、施設入所を考えるんじゃないかなあ?

 →自分の狭い物差しで人にアドバイス(おせっかい)する人ってたまにいますが、「あんたに何がわかるんよ!」って思います。

 感情を出して、体当たりでやってきたOTOKOMAEさんにしかわからないはず。何よりお母さんの表情が物語ってますよ。施設に入っていたら、あんなやわらかい表情はないと僕は思います。

 OTOKOMAEさんに一票!


投稿者: MaCO村長 | 2010年06月17日 12:49

MaCo村長さま

毎回 コメントありがとうございます。
私 思うんですが、
もし、
息子 娘から逆手をとられて
「お母さん、身体に障害がでたり、認知症になったら私は介護できないから施設に入所してよね」
と感突に宣言されても虚しくないのでしょうか?
快く、納得できるのでしょうか?
情が入り込む余地などないかのように?
ここらあたりの深層心理に興味があるのですよ。


投稿者: 野田明宏 | 2010年06月18日 10:28

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
野田明宏
(のだ あきひろ)
フリーライター。1956年生まれ。約50カ国をバックパックを背負って旅する。その後、グアテマラを中心に中央アメリカに約2年間滞在。内戦下のエルサルバドルでは、政府軍のパトロールにも同行取材等etc。2002年、母親の介護をきっかけに、老人介護を中心に執筆活動を開始。2010年現在、83歳になる母と二人暮らしで在宅介護を続ける。主な著書は『アルツハイマーの母をよろしく』『アルツハイマー在宅介護最前線』(以上、ミネルヴァ書房)など多数。『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)にて、「僕らはみんな生きている」連載中。
http://www.noda-akihiro.net/
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