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村田くみの「シングル介護のホントのところ」

口撃から一歩前進

 私の母がケアハウスに入所してから、早くも1年が過ぎました。私も自分の時間が増えることで仕事にも打ち込める。介護のゴールが見えてきたと思っていましたが、実際はそう甘くありませんでした。
 個室が割れ充てられるとはいえ、一日三食と、おやつの時間には、フロアーごとに設けられているダイニングで食事を取ります。また、入所者同士でのリクレーションも不定期にありますが、母は集団生活に慣れていないため、私が予想していた以上にストレスを感じていたようです。私と顔を合わせると、「ひとりに放っておいてくれればいいのに」などと、出てくるのは「グチ」しかありません。
 このご時世、施設に入所することは本当に困難です。申し込みから半年程度で、しかも施設は開設したばかりで素晴らしい設備が整い、私自身はこの上ない環境だと思っているので「わがままばかり言って」と、口論が絶えない日々が続きました。
 1年経ってもその時の気分によって、グチは相変わらずです。でも、私が1年経ってようやく慣れてきたのか、軽く受け流すようになったのは、介護者として一歩前進したことなのでしょうか。
 女優の小山明子さんと、野坂暘子さんの共著『笑顔の介護力』(かまくら春秋社)を読んだ時、小山さんの対応力に思わず「なるほど」と関心しました。長年ご主人の大島渚監督の介護に従事。大島監督が「死にたい」とこぼすと、「大好きなビールも飲めなくなるわよ」と切り返すと、監督は冷静さを取り戻したそうです。私はグチをこぼされるとすぐに頭に血が上って、必要以上の口(こう)撃を繰り返していました。それで、口撃の応酬でした。今はグチを聞いたとしても真に受けない、その対応力の効果があったのか、母も以前のようにひどいヒステリーは起こさなくなりました。私も一進一退でも少しずつ進んでいると思えるようになりました。

村田さんの本ができました!
アラフォーおひとりさま週刊誌記者を突然襲った母親の介護……。切実な実体験+介護施設の選び方、仕事との両立方法など介護情報満載。
おひとりさま介護』河出書房新社
定価1,575円(本体1,500円)ISBN 978-4-309-01989-5
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プロフィール
村田くみ
(むらた くみ)
1969年東京生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社、週刊誌「サンデー毎日」所属。主に経済、環境、介護の問題に携わる。現在、母親の介護に従事しながら、介護の体験記、介護者に役立つ情報を適宜発信中。
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