つわもの
上品な言葉使いで有名な(私たちの間で)おばあちゃんがいます。
言葉の最後には必ず「〜ですよ」と丁寧な言い回しが入り、喋るペースもゆっくりほんわかな奥様といった感じの方です。
そんなおばあちゃん、実はかもし出す雰囲気からは全く想像できない特質を持っているのです。。。
おばあちゃんは一人暮らしで毎日交替でヘルパーが入ることになっています。
なので私たちは一日分の食事の用意をすることになっていました。
ある日おばあちゃんの家を訪問すると、流し台にたくさんの食器と何本ものお箸にお鍋が2つ、洗い桶につけてありました。
私は娘さん家族が様子を見に来て一緒に食事をしていったんだと思い
クニ「昨日は娘さんがみえたんですね。賑やかでよかったですね」
おば「は?いいえ〜。私ひとりですよ…えっと…多分」
多分?おばあちゃんもしかして…
娘さんが来たこと忘れちゃってるの!?∑ヾ( ̄0 ̄;ノ
私はおばあちゃんのもの忘れが進行してしまったと思い、事務所に帰ってすぐに先輩に話しました。すると
先輩「ああ、あれはおばあちゃん一人で使った食器だから」
え、えええ〜!!!(*゚ロ゚)ノ☆ひとりで!?
だって洗い桶にはパーティーでもあったかのような洗い物…。
ヘルパーが帰る時は毎日流し台を綺麗に片付けることになっているので一日であんなに食器を使った=どんだけ食べてんだ!?って話になるわけです。
先輩「おばあちゃんすごいよ〜。一人で相当食べるからね。食事についての貪欲さは普通じゃないから」
知らなかった…まさかあの上品で無欲そうなおばあちゃんにそんなに欲っするものがあっただなんて…。
しかしその貪欲さがだんだん問題になってきたのです。
おばあちゃんは高齢です。
いくら食べることが楽しみとはいえ、あまり運動もしないので体重が増加。
このままおばあちゃんの希望通りにせっせと食事を作っていたら太り過ぎで身体を壊してしまいます。
ついにミーティングでおばあちゃんの食事を控えめにする事が決まりました。
でもこういう試みは本当に難しいです。
食べるのは個人の自由。果たしてそれを制限していいものか。唯一の楽しみを奪っていいものか。上手に説得できるか…。ここはヘルパーの腕のみせどころ。
私は意を決してのぞみました。
クニ「おばあちゃん、今日は何か作りますか?それともお総菜を買ってきましょうか?」
するとおばあちゃんは大事そうにスーパーのチラシを出して来て指さしました。
おば「唐揚げひとパック、コロッケ3つ、お刺身盛り合わせ2つ、お寿司20貫よろしくお願いします」
…って一日でそんなに食べるの〜!?<(|| ̄口 ̄)>
もちろん止めなければいけませんが…おばあちゃんが出してきたチラシにはペンで○や×が書き込まれ、きっとウキウキしながら熟考してたんだろうなあ…というのがうかがえる。
おばあちゃんの夢を拒否するなんてできない…!
私は考えました。
そうだ、売り切れてたことにしよう…!
スーパーへ行き希望の品を買う時に少しずつ数を減らしました。
クニ「おばあちゃんごめんね。今日は色々売り切れてて。お寿司なんて10貫入りがひとつしかなかったんだよ」
おば「……みんなそう言うんですよね」
えっ!もしかして…先輩も同じ手をすでに使っていた!?
完全におばあちゃんにバレている。
おばあちゃんの悲しそうな顔ったら…。
私は罪悪感にさいなまれながら台所の片付けに行きました。
『おばあちゃん可哀想だったな…次はあんな嘘をつかずにやっぱり食べたいものを食べてもらおうか…』
そう思いながらふとゴミ箱を見ると、そこには焼酎の1リットルパックが捨ててありました。
もしかしておばあちゃん…お酒も飲んでる!?
事務所に帰って聞くと実はおばあちゃん相当の酒豪。
でも痔が悪いおばあちゃんは刺激物を控えるように医者から言われており、私たちも刺激のあるものを作らないよういつも気をつかっているのです。
それなのにしっかりお酒を飲んでるなんて…!
実はおばあちゃん全然負けてなかったんだ!!
上品なおばあちゃんの雰囲気で誤摩化されていましたが、おばあちゃんかなりの強者のようです。
どうやって手に入れたのか焼酎を入手して自分の欲望はきっちり叶えてしまう強さを持っていたのです!
私は決めました。
おばあちゃんにはやんわり嘘をいうんじゃなく、次からは真っ向勝負で挑むことを。
「食べ過ぎですよ!」
そう言ってもおばあちゃんは、きっとめげないんだろうなあ。
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