変わるものと変わらないもの
「無駄なんかじゃない」の回の他、何度か登場してくれた名言を授けてくれるおばあちゃんが施設に入ることになりました。
最近認知症の症状が進み、足腰も急に弱くなり、食事をとるのも忘れてしまう。おばあちゃんの親戚、ケアマネジャー、担当の医師が相談し一人暮らしは限界ではないかと判断されたからです。
症状が急激に進んだおばあちゃん。私がつい先月訪問した時はまだまだ名言で私を諭してくれていたのに…。
信じられない気持ちでおばあちゃんの家へ訪問しました。
クニ「こんにちはー!」
しーん。
返事はありません。これはいつものこと。
耳が遠いおばあちゃんは毎回大きい声で呼びかけるのにヘルパーの訪問に気付かずにテレビを見たり、ヘルパーの訪問自体を忘れて元気にお出かけしていたり…。
そんないつものおばあちゃんを想像して玄関を開けると、そこには静かにベッドに横たわるおばあちゃんがいました。
クニ「おばあちゃん、おばあちゃん」
おば「あ…あれー?」
いつもならここで、あ〜!今日はヘルパーさんの日だった!と思い出してくれるのですが
おば「あんた……」
クニ「は、はい!」
おば「大きくなったねぇ〜」
お、おばあちゃん、前からアタシこの大きさだったよ〜!( ̄▽ ̄;)
おばあちゃんは親戚の子か何かと間違えているのか私の頭をなでなでしてくれています。
前は「あんた…東京から来た人だね!」とすぐに思い出してくれたおばあちゃん。やっぱり以前とは違う。でも、かわいらしさはそのままだなぁ。
とにかく今のおばあちゃんに大切なのは栄養補給と安全確保です。
まずは食事の用意。
台所を見るとお味噌汁と炊いたご飯がある。元気が出た時は以前のように自分で作っているんだな。嬉しくなって温めようとするとおばあちゃんが起きてきました。
でもその足はおぼつかなく、支えがないとふらふらして歩けない。おばあちゃんの手をとり一緒に台所まで来ました。
クニ「おばあちゃん、自分でやりたいの?」
おば「……」
急にコンロの使い方が分からなくなったのか、温める気分じゃないのかおばあちゃんは不思議そうな顔でコンロの前に立ちすくんでいます。
立っているのも辛そうなので座ってもらい、温めた食事を出すけどあまり食べたくなさそう。何とかすすめて食べてもらいました。
とにかくお喋りが大好きなおばあちゃん。
よく「今日は家事しなくていいから!ちょっとこっちに来てお話でもして帰ればいいじゃない。」となかなか仕事をさせてくれなかったっけ。
クニ「おばあちゃん、何かお話したいことないですか?」
そう話しかけてみました。
するとおばあちゃんの目からぽろぽろと大粒の涙が…。
クニ「おばあちゃん…」
もう施設に入ることは伝えられているだろうけど今のおばあちゃんには正確に理解できているか難しいかも知れません。
でもなんとなく、自分の身体が、環境が変わる不安や寂しさだけは感じているんじゃないだろうか。
大好きなおじいちゃんも施設に入っているけど同じ所には空きが無く、別の施設へ行くことが決まっている。楽しみにしていたお見舞いもままならなくなるだろう。絶縁状態で生き別れた息子さんが万が一この家に帰ってきてもおばあちゃんはもう待っていてあげることができない。
おばあちゃんの涙にはたくさんの深い気持ちが込められていて一言も話さないのに色んなことが伝わってくるような気がしました。
しかし帰り際…おばあちゃんに挨拶をすると急にピッと背筋がのびておばあちゃんの顔がいつもの顔になったのです。
おば「ありがとう、ありがとうねえ」
としっかり挨拶をしてくれました。
ヘルパーの仕事の大変さを理解してくれていつも感謝をしてくれていたおばあちゃん。
感謝の気持ちを忘れないのがおばあちゃんのポリシーでした。
何事にも信念を持って自分の意思で自分の人生を決めてきた。
今、自分でいろんな事が決められなくなっても…その信念はしっかりとおばあちゃんの心にあるのです。
いろんなことが変わっていく…。
いつもの帰り道、どうしようもない気持ちがこみ上げてきます。
私はおばあちゃんが頭をなでてくれた時の手のぬくもりを、何度も何度も思い出していました。
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