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長谷川和夫先生に聞こう! 認知症のエトセトラ

種をまくことの楽しさ

 3月は春の訪れを全身でうけとめる暖かさを感じる月ですね。中学校の英語の教科書、第1章で「Spring has come!」と読んだ記憶があります。
 また、3月は卒業式の季節でもあります。今時分は、週末近くになると華やかな晴れ着姿の女子学生さんが卒業証書を入れた円筒をもって歩いている情景がみられます。私も先週、嘗て奉職した聖マリアンナ医科大学の卒業式に列席しました。きらきらと輝く目をした男女99名が卒業していきました。この32回生は、6年間で5,068時間の授業を受け、医学全般に亘る知識と技術で頭はいっぱいだと思います。列席しながら、自分の学長時代に、長男が修学を終えて19回生として卒業式を迎え、学長の立場で卒業証書を渡したことをふと思い出したりしました。開学以来、35周年を迎えて卒業生は3,287名です。毎年、全国で約8,000人の医師が誕生していますが、医師不足は深刻で地域の基幹病院は医療崩壊に近い現状のところが出ていることは皆さんもよく知っておられると思います。私も憂慮しているところではあります。

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 「認知症を知り 地域をつくる」キャンペーンを行っていることもあって、地方に出かけて講演をさせていただく機会が最近増えました。聖マリアンナ医大を卒業した医師で認知症の地域医療にたずさわっている方もおられ、先日行われたシンポジウムでも私の基調講演のあと、30分の事例報告をされた教え子がいました。私たちのまいた小さな種が大きな樹木に育って地域医療に貢献されていることを知りました。
 また、私は神経精神科部長のときに外来診療の延長として認知症の方と家族を対象にしたデイケアを始めたことがあります。1983年6月から約13年間です。毎週1回水曜日に行いましたので水曜会とよんでいました。本ブログでも紹介しましたが、孤立しがちな認知症の方に人とのつながりをつくることと、家族への支えをつくることを目的としていました。助けあう仲間づくりです。この家族の中から自分たちで実際にデイケアをやってみようという動きも出ました。あるいは、水曜会の体験を種にして介護支援センターなどを立ち上げてNPO法人をつくり、さらに多数の事業所とネットワークをつくられた介護福祉士もおられました。この方も先日行われたシンポジウムの一員として発言され、まさに町づくりの中核として活躍されています。
 私が現在勤務している認知症介護研究・研修東京センター、そして仙台と大府の両研修センターでは、認知症の介護指導者研修など多様なプログラムが運営されています。これらの指導者が全国各地域で活躍している姿も本当に頼もしく感銘をうけています。
 認知症のケアについて正しく理解し、介護の現場で活躍している姿は希望の源泉です。課題は山積していますが、認知症を知ることの大切さ、その種をまいていくこと、認知症の人と家族を支えるべく「畑」をたがやしていくことを一歩一歩すすめながら、志を高くもって歩んでゆきましょう。


コメント


種を蒔く楽しさ、認知症の人と家族を支えるべく「畑」をたがやしていく事の楽しさ、その陰に隠れている汗や涙・苦労、そしてそれが報われた時に芽が出て実となる喜びや信頼関係は、何にも代えがたい価値があります。高価な実でなくても色鮮やかな実でなくても、見て呉れの悪い実でも中身が美味しくて栄養があれば良いのだと思います。お金をかけて特別な事をするのではなく、一歩一歩(毎日)畑に水撒きをし、成長を妨げる雑草は引っこ抜いて潤いある畑作りを地道に耕してゆけるように努めたいです。


投稿者: 玉本あゆみ | 2010年02月14日 19:12

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
長谷川和夫
(はせがわ かずお)
認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授。専門は老年精神医学・認知症。1974年に「桜、猫、電車……」の長谷川式認知症スケール(HDS-R)を開発者して以来、常に認知症医療界の第一人者として時代を牽引してきた。最近では、「痴呆」から「認知症」への名称変更の立役者でもある。『認知症の知りたいことガイドブック』(中央法規出版)、『認知症を正しく理解するために』(マイライフ社)、『認知症診療のこれまでとこれから』(永井書店)など著書多数。
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