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長谷川和夫先生に聞こう! 認知症のエトセトラ

物語りとの出遭い-ある女の子の物語り

 日常のありふれた生活のなかで私たちはいろいろな出遭いをもちますが、今日は「物語り」との出遭いをとりあげました。
 
 足もとのおぼつかない幼い子(1才半位)が公園を歩いていました。ところが何かのはずみで転んで泣き出しました。するとそこに4才位の女の子が駆け寄ってきました。助け起こすのかなと思ったら、女の子は倒れている小さい子の傍に自分も腹ばいになり、幼い子を見てにっこり笑いかけました。泣いていた子もつられて泣きやみ、にっこりしました。女の子が『起きようね』と言うと小さい子も『うん』と言って一緒に立ちあがり、手をつないで歩いてきました。

 このエピソードは、かつて私が奉職していた聖マリアンナ医大の同僚、O教授がある出版物のコラムに執筆した物語りです。O教授は形成外科が専門で、幼少児の先天性にみられる口蓋や耳朶の形態学的な障がいを治療する医師でした。障がいをもった子どもや両親の苦悩をよく理解し、治療をしていました。

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 ところでこの物語りの女の子は、介護の原点を示しています。まず最初に、駆け寄りました。そして、上から引き起こすのではなく、一緒に立ちあがろうと声かけをしました。自ら起き上がる力とその可能性を信じ、それを果たした喜びを共に味わうことを示しています。
 これは医療や介護の専門職にとって大切なモデルだと思います。私たちは介護を必要としている方の心を大切にせず、ちょっとした助けがあれば本人が自分で起き上がることができるのに、あるいは自分で食事をすることができるのに、時間や自分の都合を優先して過剰な支援をしてしまっていることがあるかもしれませんね。
 介護には、その人をいとおしむ心、愛する心が大切です。物語りの女の子は、それを態度で見事に示しています。


コメント


4歳の女の子の咄嗟の判断力にも頭が下がりますね。きっと、御両親の教育が素晴らしいのでしょう。本当の優しさとは、どういう事のなのかが身についておられる様にも思いました。
その時の声かけが威圧的ではなく自発性を促す様な優しさが溢れております。子供の発想には大人が反省させられたり、驚かされる様な人としての純粋さ・素朴さがりますので心が和みます。認知症の方々が求めるものは、やる気にも繋がる「癒し」なのでしょう。私も子供の様な純粋さも忘れる事なくケアにあたって参りたいと思います。認知症の方々が御自分の障害にも負けないで、何かを伝え様とされたり、出来ないことでもチャレンジしようとされる御姿、色々な御気持ちを伝え様となさる御姿は心から愛しいと思えます。心を閉ざしてしまう御気持ちにも寄り添い一緒に受け止めて、一緒に前を向いて生活しょうとして下さる御姿にも心から愛しく思えます。クリスティーン・ブライデンさんが私達に伝えて下さった「Love! Love! Love!」が1番大切な姿勢なのだと思います。愛情とは御機嫌をとる感情ではありません。見守る大きな器の様な気がします。認知症御本人の命が、再び輝きを放つ様な寄り添い方を心がけて参ります。


投稿者: 玉本 あゆみ | 2010年01月24日 08:22

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プロフィール
長谷川和夫
(はせがわ かずお)
認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授。専門は老年精神医学・認知症。1974年に「桜、猫、電車……」の長谷川式認知症スケール(HDS-R)を開発者して以来、常に認知症医療界の第一人者として時代を牽引してきた。最近では、「痴呆」から「認知症」への名称変更の立役者でもある。『認知症の知りたいことガイドブック』(中央法規出版)、『認知症を正しく理解するために』(マイライフ社)、『認知症診療のこれまでとこれから』(永井書店)など著書多数。
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