人間ってすばらしい!
老人福祉施設「花樹(かじゅ)かまくら」は小規模多機能、地域密着型、認知症対応型の複合施設です。人生の最終章まで在宅で介護し、看取りたいご家族や、ご利用者のご要望に沿ったところです。
ご利用者のペースに合わせた“ゆっくり”リズムを理念に、温かいふれあいやご利用者のできることは奪わない等々に心がけています。また「健康は食事から」です。食べることは愉しみの一つですので、食事はすべて手作りです。ご利用者の皆様はなかなかの健啖家でいらっしゃいます。
そんな花樹かまくらのデイサービスの様子をご紹介したいと思います。
あるご利用者の男性は、奥様お一人での老々介護でした。
認知症が進み、お風呂に入らない、話をしない、一日中いすに腰かけたまま、奥様の介護が意に沿わないと暴力が出るようになってきました。奥様の介護も限界でした。そんな折、縁あってデイサービスにいらっしゃいました。
花樹かまくらにいらっしゃったばかりのときの歩行は、横歩き(かにのような)。立位着席は困難で、食事はすぐ手づかみになる、入浴はスタッフ二人介助です。
幸い、耳はちゃんと聴こえていました。そこでスタッフはゆっくり話しかけ、本人が理解し、納得し行動に移るまで待つ「ケア」をしました。するとたちまち良い状態が現れました。
まず表情がいきいきした笑顔が出ました(これがたまらなく良いのです)。
ストレッチ体操のグループの輪の中にいますと、自然に手が伸びてきました。紙風船つきでは当初、紙風船を渡してもすぐクシャクシャにしてしまいました。
この時、ほかの利用者さんはどのようだったでしょうか。みなさんはこの方を否定することなく、見守り受け入れてくださいました。
そしてスタッフが目の前で紙風船をついてみますと、少しずつ上手にできるようになりました。
良い方向にスパイラルしてきますと、言葉が出てきます。横歩きしながらのひとりごと。
「ぼくはそうじゃないと思いますよ。それは違うと思いますよ」
かつて仕事でご活躍していた頃のことのようです。
その他、写真本を見ながら「美しいですネ」「失礼しました」「ご馳走さまでした」「ありがとう」等々。
一度失われたものが取り戻せました。この事実を日々目の当たりにするスタッフは大喜びです。感動でした。
対人関係が豊かだった方は、スタッフに「大変ですネ」「ご面倒おかけします」と労をねぎらって下さいます。その一方で書くことがおぼつかなくなっています。
雑用を片付けているスタッフに、サッと手をかして下さる大変気働きのいい方もあり、恐縮しています。
また、花樹かまくらには絵の上手な方が偶然集まりました。ご自分の絵を「これは誰が描いたんですか」と言われますが、絵の先生(役)を立てて、「絵を描く時がいちばん楽しい」と、それは熱心に和やかな絵画教室になります。
2~3月はおひな様の絵でした。壁の一角はさしずめ花樹かまくらギャラリーです。
スタッフはご利用者の力を引き出すように多方面からの働きかけをしなければなりません。
スタッフの力量が問われるところです。
また、人間関係が生涯家族だけで他人とのかかわりが少なかった方は「ここへ来ると名前で呼ばれるので大変嬉しい」と、にこにこ大きな声で「ハイ!」と返事されます。
このひとことに、一人の人間ということを考えさせられました。
ご利用当初は表情も険しく、1対1の対応が必要な方がいらっしゃいました。
話は否定せず、目を見て安心するような受け答えをしなければなりません。スタッフは安心する言葉は何かと、必死で探します。間違うと、即怒りモードに切り替わります。時と場合によっては黙って寄り添っているだけであったり、疲れやすいので休息を勧めたりします。
一日の中でこのような状況ばかりではありません。グループアクティビティにもお誘いします。ボールゲームではうまいトスをします。元球技選手だったことがうかがえます。またグループの中にいるだけで何もしなくていい、参加しているだけで意味があります。
この方も1年近く過ぎた頃には幻覚も穏やかなものになりました。笑顔も見られます。発病前の穏やかさに戻ることが多くなりました。
落ち着いてきたことにご家族の方がいちばん驚いておられます。
繰り返される「帰る」コールや作話のある方も、朗読は大変上手ですし、生け花に本領を発揮され、お見事です。
ご利用者各々に好きな歌があります。ゲームに勝った時、その方の持ち歌を皆で歌います。ちなみに「青い山脈」「有楽町で逢いましょう」「東京ラプソディー」「高校三年生」「ソーラン節」「真室川音頭」等々です。
その他に緊急時の対応も行っています。老夫婦二人世帯でご利用者男性が術後ほどなく奥様の入院が決まりました。
この時はご利用者にほぼ毎日デイに来ていただき、昼食、夕食の2食を召し上がっていただきました。お帰りには翌日の朝食用のスープ(栄養たっぷり)をお持ちいただきました。
また日中独居の方には定時コールをし、服薬や摂食の有無を聞き、安否確認をしています。何よりも「あなたのことを気にかけていますよ」の発信になります。またご家族のご都合により早朝のお迎えや時間延長してのお送りもしています。
花樹かまくらは設立3年目に入ります。利用者さん同士に馴染みの関係ができました。利用者さん同士の談笑は大変和やかで良い雰囲気を醸し出しています。
人間ってすばらしい!
お一人おひとり、人間味豊かな、敬愛すべき方々と人生をともにできることは、本当に幸せなことです。
コメント
Mさんは物静かな小柄な方。長年高齢者の介護に携わってこられたし、今またこんなに細やかな心で花樹かまくらの利用者に接しておられるのですね。そのパワーが何処から出てくるのでしょう!
色々な施設やシステムがありますが、年老いて色々分からなくなってしまった時でも、近くに居て自分を支えてくれる人の心は分かるのだと思います。表面的でなく、本当に自分を見守ってくれる人、付き合ってくれる人…Mさんのように心に触れる介護に私も将来出会いたいです。
「果樹かまくら」は英勝寺の近くにあり、名称からも伺えるように園芸療法をしています。
花壇には利用者のお名前がつけられており、各人がお世話をするようになっています。私がうかがった時は様々な色のストックが谷戸にさす陽光を浴びていました。咲いた花を摘んで生け花や絵にされます。世話をうけるだけでなく、できることは行い、その成果を楽しめるようになっています。こういう施設で、Mさんのような細やかな行き届いた介護を受けられる、ご本人はもとより、ご家族も安心と思います。
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