なぜ悪性症候群が起きるか
【Q】
なぜ悪性症候群がおきるのでしょうか。その病態生理を教えてください。
【A】
悪性症候群は、抗精神病薬服薬中であればいつでも発症する可能性があります。突発的に意識障害、自律神経症状、錐体外路症状などを呈し、非常に重篤で危険な状態です。一般的には投与開始から2週間以内に起きることが多いのですが、長時間の治療継続中に発症する遅発型も少なくありません。後者の場合、風邪、扁桃腺炎などを契機として発症することがあるので、発熱を単なる発熱として見過ごすことなく、その後の全身状態や血液データを慎重に追う必要があります。また、ドパミン作動薬の抗パーキンソン薬を急激に減量あるいは中止した時なども、まったく同じメカニズムが生じますから要注意です。
悪性症候群の発生は、抗精神病薬が自律神経系と錐体外路系へ過剰に作用すること、つまり脳内ドパミン系とセロトニン系、ドパミン系とアセチルコリン系、ドパミン系とGABA気の不均衡により起こると考えられ、患者さんの体質的な脆弱性と過敏性も関連していると推測されています。また、危険因子としては、脱水、低栄養、外部からの熱負荷、その他の身体合併症の存在があげられます。悪性症候群の発生機序を生化学的に説明すると、全身の筋肉細胞膜の透過性が亢進して筋肉酵素が放出し、その結果、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)、乳酸脱水素酵素(LDH)、アルドステロン(ALD)の血清濃度が上昇するというメカニズムです。神経伝達機構ではノルエピネフリン系が頻脈、発汗、筋けいれん、といった過活動を誘発し、セロトニン系が体温を上昇させ、ドパミン系の神経伝達遮断が錐体外路症状を引き起こすといわれています。また、ドパミン受容体拮抗作用が錐体外路系にとどまらず視床下部、自律神経中枢に作用すると、末梢性交感神経機能が亢進状態となり、末梢循環不全、肺水腫、イレウスなどさらに重篤な状態を招くので、その場合は早期に対処しなければなりません。
出典:辻脇邦彦・南風原泰・吉浜文洋編『看護者のための精神科薬物療法Q&A』中央法規出版、2011。