頻便
【Q】
糖尿病のコントロールのために入院している62歳の男性について相談に乗ってください。
この方はほとんど一日中、便意を訴え、1時間おきくらいにナースコールを押します。トイレに行っても排便はほとんどなく、またすぐ元に戻してくれと訴えることが繰り返されています。
一度下痢で間に合わなかったことがあり、それからは特に頻回に便意を訴えます。
車椅子は自操できるのですが、ベッドと車椅子、そして便器と車椅子の移乗に介助が必要です。そこで、ナースコールのたびに看護師の時間がとられ、困っています。夜間は眠れれば比較的落ち着いています。ごく軽い認知症はありますが、日常会話に不自由はなく、理解力がちょっと悪いくらいです。性格は神経質で、私たちは精神的なものの可能性が高いと考えていますが、どう対応すればよいのかわかりません。
本人は不安がっておむつを当てていますが、尿はしびんでとれており、問題はありません。
【A】
まず、便の状態を看護師さんに確認しました。
「便は柔らかめですが、今は特に下痢というわけではなく、形があります。でも、10日ほど前までは下痢でした。食事は1600カロリー食で、入れ歯がうまく合わないために粥食を食べていますが、食欲はあります。トイレに行く以外は、日中ほとんどベッド上で過ごしています」ということでした。糖尿病についてどのような治療をしているのか確認したところ、「糖尿病そのものが悪化したというより、糖尿病のために足に潰瘍があるのですが、それが細菌感染を起こしたため、その治療と全身管理のために入院しています。足のためには抗生剤を使用しましたが、今はほとんどよくなっています」ということでした。
軟便は、抗生剤を活用したこととも関係していそうです。また、糖尿病そのものでも腸内細菌のバランスが崩れ、ガスが発生しやすくなったり、下痢に傾きやすくなったりします。その上抗生物質を服用した場合は、その状態が起こりやすくなります。看護師さんからの話で、糖尿病、抗生物質との関係が強そうに感じました。でも、実際どのような状態か観察することが一番なので、ご本人の了解を得て病棟まで訪問しました。
肛門の状態をチェックする方法は目で見るという以外にもいくつかあります。指の内診は、肛門を締める力や炎症などがないか確認することができます。また、肛門の中で風船を膨らませて、便意の確認や押し出す力を確認するとい方法もあります。
この方の場合、その両方をやってみました。まずおむつを開けるとほんの少しですが、おむつにやわらかい便が付着していました。これだけでも肛門周囲のスキントラブルの可能性があります。でも、肛門は見たところ少し赤くなっていましたが、それほど目立つ炎症ではありませんでした。そこで内診したところ、肛門の中が熱感を持っており、中に炎症があることがわかりました。
また、肛門の中で風船を膨らましてみると、一般的には一度30cc前後で便意を催しますが、その後いったん落ち着き、再度150CC以上の空気で反応があるのですが、この方は、わずか30CCの空気で我慢できないほどの強い便意を訴えました。これは肛門の中の炎症が強く、過敏に反応していると思われました。おそらく炎症は抗生物質を使っていたときの下痢の刺激だったのではないか、あるいは糖尿病によるものもあるかもしれません。
いずれにしろ、過敏な炎症症状をとることが改善につながるので、まず肛門周囲には排便後、市販の皮膚保護材の入ったスプレー(サニーナ®)で清潔にするように話しました。絶対にこすって拭かず、軽い押し拭きにすることを強調しました。また、肛門の中にはキシロカンゼリー®をつけて、感覚をまひさせることを勧めました。
また、主治医と相談して、腸内細菌のバランスが崩れている可能性があるため、整腸剤の服用も検討するようにアドバイスしました。
看護師さんは早速実行してくれ、主治医と薬剤師との相談の結果、その日のうちに整腸剤が処方され、そのほかのケアも実行されました。
2週間後、「訴えはめっきり少なくなりました。痛みも訴えません。ただ、本人は毎日排便がないと不満のようで、排便があると落ち着きますが、排便がない日は2~3回便を出したいとコールがあります。ただ便が出れば納得して落ち着くので様子をみています」ということでした。
この方の場合、性格的な面も影響していたとは思いますが、精神的な問題にする前に身体的なアセスメントをすることがまず原則になります。
出典:西村かおる著、『こちら、お漏らし110番―排泄とそのケアにズバリお答えします』、2000年、中央法規