運動不足と脱水による便秘
【Q】
母のことで相談します。母は78歳です。3年ほど前より心臓が悪く、薬を服用していますが、家の中では何とか歩いています。最近、便秘がひどくなり、かかりつけの先生からもらった下剤を常用しています。2日に1回定期的に下剤を飲んでいますが、下剤によって下痢になるなどはありません。しかし、常に下剤で出すことは体に害がないかと心配で、ご相談しました。
【A】
まず便秘がいつ頃から始まったのか、確認しました。
「どちらかと言うと、母は若い頃から便秘ぎみだったと思います。でも、常に下剤を服用するようになったのは、この2か月くらいだと思います」
そこで、この2か月くらいで、生活環境の変化、病気など、何かなかったかどうか、確認しました。
「特には思い当たりません。食欲もありますし・・。ただ、そう言われてみれば、そのころから夏になりましたから、あまり外に出ることがなくなりました。それまでは、車椅子を押しながら、できるだけ歩けるところは歩くという、1時間ほどの散歩を日課としていました。でも、暑さに弱いものですから、だるいと言い出し、またむくみも出たりしたことから、お休みしてしまいました。また、そう言えば、むくみのためにお薬が変わりました。利尿剤が出て、トイレが近くなり、その心配があることも散歩をやめた理由のひとつです」
どうやら、散歩を中止したことと、利尿剤が便秘に関係していそうです。利尿剤の服用に加え、夏になって発汗していることから、脱水の可能性がないか、利尿剤の効果とともに確認しました。
「利尿剤はまだ飲んでいます。むくみはもう全くないと思います。利尿剤は朝飲むので、午前中は何度もトイレに通っています。自分で飲んでいるので、水分などは細かくは確認していませんが、午前中はトイレに回数多く行くことになるので、確かに水分は前よりとっていないかもしれません。汗は元々あまりかくほうではなく、クーラーも嫌いで使っていませんが、この夏も汗をかいているようには見られません」
とのことでした。そこで、脱水の症状としてのだるさ、唇の乾燥などの症状がないか、さらに確認しました。
「だるいというのは、むくみが出たときから言っていますし、元々夏に弱いので・・。唇が乾いた感じは多少しますが、本人は何も言わないので、特には気がつきませんでした」
そこで、散歩を止めたことによる運動不足、生活のリズムの変調、また利尿剤による水分不足によって、便秘になっている可能性を伝えました。特に、利尿剤はむくみが解消したにもかかわらず服用している場合、体に必要な水分を絞り出してしまっている可能性があります。その上、頻尿が苦痛で水分を控えると、さらに悪化してしまいます。高齢者は脱水しやすく、また喉が乾いても漏れを心配して我慢してしまう人がいるので、特に注意が必要と伝えました。
そこでまず、むくみの状態をきちんと確認し、主治医に利尿剤の服用が必要かどうか指示を仰ぐことを勧めました。また、可能であれば水分摂取量と尿量を日誌につけることを勧めました。それによって、バランスがとれているかどうかの目安になるからです。ご本人に喉の乾きなどがあれば、我慢せずに水分を摂取する必要があることもきちんと説明し、脱水への予防をご自分で心がけてもらうように話しました。
運動不足に対しては、夕方の涼しい時間、15分でもよいので少し外に出て歩くこと、また横になっているときにゆっくりと時間をかけて腹部を「の」の字にマッサージすることを勧めました。それによって、腸の動きを促進することができるからです。これらのことは、便秘のためだけではなく、全身状態を良好に保つために必要なことです。寝たきりを防ぐこと、夏に起こりやすい脱水による発熱や、倦怠感の防止に不可欠と話しました。
下剤は習慣的に常用するのではなく、水分摂取、散歩、お腹のマッサージなど環境を整えることを実施し、それでも出ないときに服用するように勧めました。排便前の肛門の刺激も説明しました。ただ下剤が全て悪いわけではないので、排便習慣が戻ってくるまでのしばらくは併用して、徐々に減らしていくことが現実的ではないかと説明しました。
「本人自身、トイレに近いのが嫌なのと、むくみのために利尿剤を飲んでいるのに、水分をさらにとることは体によくないことではないかと私もどこかで思っていて、水分摂取は勧めていませんでした。でも、逆だったんですね。早速本人にも聞いて、日誌をつけ、先生に相談してみます」
というご返事で、相談をひとまず終えました。
出典:西村かおる著、『こちら、お漏らし110番―排泄とそのケアにズバリお答えします』、2000年、中央法規