薬についてのインフォームドコンセント
【Q】
薬についてのインフォームドコンセントは、どのように、どこまで行われているのでしょうか。
【A】
インフォームドコンセントは、日本医師会や日本看護協会などの専門職団体の倫理綱領に盛り込まれており、現在の医療においては必須の項目です。しかし、精神科のみならず医療全体を見渡しても、十分に行われているかはまだまだ議論が必要なところです。
インフォームドコンセントとは、医療者が患者さん本人に治療に関する十分な説明をしたうえで、患者さんが自発的に同意することですが、あくまで患者さんの自己決定ということが重視されます。そのためには、患者さんに対して、医療者が診断、治療内容と目的、薬の作用と副作用、治療の見通し、費用、その他の選択肢など、患者さんの理解度に合わせてわかりやすい言葉や方法で説明すると同時に、患者さんの治療に対する不安を軽減し、自ら選択することができるように支援することが必要です。
ところが精神科においては、つい最近まで患者さんには正確な診断名を伝えないというような慣例もありました。それは、精神疾患をもつ患者さんが自分の状態を認識することができず、したがって、説明しても理解することも自己決定することもできないと根拠なく信じられてきたからです。また、社会に精神障害者への偏見や差別が根強くあり、その診断は社会的な死の宣告にも似たものがあると思われていたからでもあります。現在でも、「こんなに情報を与えては患者さんが混乱する」「患者さんは疾患や治療の専門的な説明をしても、そんなに理解できないだろう」という声が医療者側から上がることがありますが、そこには医療者側の治療への不安が投影されていることがしばしばあるものです。
最近では、精神疾患は脳の病気であるとの見方に立ち、患者さんや家族に疾患について教育し、薬の作用や副作用についても教える患者教育・家族教育が広く行われるようになってきました。社会生活技能訓練などにおいても、服薬の仕方や医師に処方の変更を求めるスキルの習得を図るプログラムが実施されています。これらは、疾患や薬についてのインフォームドコンセントが前提となっていることはいうまでもありません。
出典:辻脇邦彦・南風原泰・吉浜文洋編『看護者のための精神科薬物療法Q&A』、中央法規出版、2011