薬物療法における治療の諾否の権利
【Q】
患者さんの治療を受ける権利、治療を拒否する権利について、薬物療法の観点から教えてください。
【A】
精神科では、患者さん本人の自発的意思に基づいた任意入院が原則であり、患者さん本人の同意を得るように医療者は最大の努力を払わなければなりません。しかし、治療と保護のため、やむを得ず措置入院や医療保護入院、応急入院など、患者さん本人の同意のない入院形態をとらざるを得ない時があります。また、「拒薬」といった形で治療への拒否を示すこともあるでしょう。そのような時、患者さんの「自己決定権」を尊重する立場から、与薬をしないで様子を見るほうがよいのか、医療者は倫理的ジレンマに陥ることになります。
患者さん自身が治療の必要性を判断できなくても、今すぐに治療しなければその人の安全や利益を損なうことが明らかな場合は、治療を進めることが必要になります。しかしその場合、強制的治療をしなければならない緊急性があるのか、その治療が適切なものかどうかなどについて、常にチェックされなければなりません。また、このような場合も、患者さんへの治療についての説明は不可欠です。薬物療法は確かに急性期症状を鎮静させる効果がありますが、精神疾患の治療は継続的に何年にもわたって行われることがほとんどであり、それには治療者と患者さんとの信頼関係が重要だからです。
また、まったく判断ができないという状態は、適切な治療を行えばそう長く続きません。患者さんの経過を見ながら、適宜自己決定能力をアセスメントし、徐々に患者さん自身の意思を治療計画に反映させていくことが必要です。その際、治療を拒否する背景には何があるのか、患者さんの人生観や価値観はどのようなもので、治療はそこにどのように影響しているのかを、患者さんとともに考えていきましょう。
出典:辻脇邦彦・南風原泰・吉浜文洋編『看護者のための精神科薬物療法Q&A』、中央法規出版、2011