多剤併用
2012年06月25日 09:10
【Q】
何種類もの精神科薬を飲んでいる長期入院の患者さんがいますが、なぜあんなにたくさん飲まなければならないのかと疑問に思います。なぜ日本では多剤併用で薬を使用するのでしょうか。
【A】
非定型抗精神病薬が5種類になった2001年頃から、抗精神病薬の多剤大量使用が問題視されています。しかし、元々精神科薬物療法のテキストでは、多剤併用に批判的な見解が述べられていて、精神医学教育で多剤併用が推奨されていたわけではないようです。
抗パーキンソン薬の併用についても、「必ずしも併用しなければならない性質のものではない」と述べられています。その理由としてあげられているのは、抗パーキンソン薬にも抗コリン作用などの副作用があること、遅発性ジスキネジアを増悪させることです。
多剤併用が問題であることは、少なくとも30年前からいわれていました。では、なぜ世界の常識に反して多剤併用大量療法がわが国の精神科臨床では、続いてきたのでしょうか。精神科医の処方の姿勢に問題があるのは当然ですが、それには、精神医療を取り巻く社会的、経済的要因も影響を与えていると考えられます。1970年代前後の精神病床の増加と多剤併用の増加が並行しているとの調査結果もあるようです。
またかつての出来高払い中心の診療報酬も関係しているでしょう。薬価差益が病院経営にとって無視できない時代が続き、精神科に限りませんが「薬漬け医療」が問題とされてきました。処方に経済的面が過度に反映されると多剤大量処方となるのは避けられないと思います。
出典:辻脇邦彦・南風原泰・吉浜文洋編『看護者のための精神科薬物療法Q&A』中央法規出版、2011。