高齢者虐待防止法の理解(2)
【Q】
高齢者虐待の通報先は?
【A】
本法律は、「養介護施設、病院、保健所その他高齢者の福祉に業務上関係のある団体及び養介護施設従事者等、医師、保健師、弁護士その他の高齢者の福祉に職務上関係のある者は、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、高齢者虐待の早期発見に努めなければならない」と定めています(第5条第1項)。
虐待の通報に関して、わが国の法律が欧米の法律と大きく異なる点は、わが国においては虐待の発見者が、「高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている」か否かを判断し(第7条第1項)、そして、もしそのような「重大な危険が生じている場合は、すみやかに、これを市町村に通報しなければならない」(第7条第1項)と、定めている点です。欧米の法律は、虐待の発見者にこのような判断を求めてはいません。虐待の発見者は、「虐待の確認をすることなく」虐待の容疑を通報すればよいことになっています。そして、被虐待高齢者の生命または身体の状況を評価するのは、通報受理機関の担当専門職になります。
専門的な訓練を受けたことのない多くの虐待発見者に、このような重大な責任を課すやり方には大きな疑問が投げかけられるのではないでしょうか。わが国の場合、もし、法律が現状と変わらなければ、いくつかの地域で実行されているように、「虐待または世話の放任だと思われる状況はすべて通報する」ように専門職が住民の教育を行わなければなりません。
本法律は、虐待の発見を通報義務者(第5条第1項)による「通報」(第7条第1−2項、第21条第1−3項)と高齢者による「届出」(第21条第4項)に頼っている。このことからも、「社会的に弱い立場にいる高齢者」の安全を保証するためには、できる限り多くの虐待ケースを早期に発見して適切に対応することが必要です。専門的な訓練を受けていない者が緊急性の判断を行うことによって、通報が遅れたり、または通報ができなくなって、取り返しのつかない事態が発生した場合、法的責任を含む様々な種類の責任は誰が取るのでしょうか。虐待の早期発見には、早期の通報及び届出が絶対的な必要条件なのです。地域住民及び専門職への広報教育活動は、このことを強調すべきだと思います。
出典:社団法人日本社会福祉士会編『高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド』中央法規出版、2010年