認知症の人の問題行動
【Q】
認知症の問題行動に手を焼いています。何かよい解決策はありませんか。
【A】
介護現場で起こる介護拒否、暴力行為、徘徊、ろう便などの現象を、総称して「問題行動」ということがあります。特に認知症を抱えた高齢者への介護を考える上で、切っても切り離せない現象だと書かれている書物すらあります。しかし果たして、本当にそうなのでしょうか。
確かに身体介助を行う場面では、利用者が大きな声を出したり、手を出されることがあります。それを「認知症だから」「問題行動が起きるのは仕方ないから」と割り切って考える職員がいるのはとても残念です。
人は誰でも老いて病み、やがて死んでいきます。それは自然な現象ではありますが、老いを認めること、誰かの助けを受けなければ生活が成り立たないのを受け止めることは簡単ではありません。
認知症を抱えた高齢者の場合、自分の置かれている状況を正しく理解できないことがあります。どうして立ち上がろうとすると「1人で立たないで」と言われるのか、お腹がすいてるのに「もう食べたでしょ」と言われるのか、トイレやお風呂などプライベートな空間にズカズカと遠慮なく入ってくる人がいるのか…、身体介助の場面では特に混乱が大きいのではないでしょうか。
どんな人でも、人に身体を預ける(身体介助される)のは不安や恐怖が大きいものです。介助される側に不安や恐怖心があれば、その状況から抜け出そうと大きな声が出たり、必死に手が伸びます。こうした反応は自分自身に置き換えて考えれば自然ですが、介護現場では「認知症あり。介護拒否・暴力行為あり」という烙印を押されてしまうのです。
介護を始めた頃は、目の前の高齢者が認知症かどうかを気にせず、必死にその人の話に耳を傾けていたはずです。
高齢者が混乱する理由もわからず、なぜ?どうして?どうしたらいいの?とたくさんの疑問を抱き、何とか力になりたいと思っていたはずです。ところが仕事に慣れてくると、自分でも気づかないうちに「認知症の人だから」と、認知症の有無でその人を判断するようになることがあります。
本来は、認知症があってもなくても、目の前の高齢者の目に何が見えて何を感じているのかを考えることが大切ではないでしょうか。
出典:安西順子編『気づいていますか 認知症ケアの落とし穴』中央法規出版、2012年