排泄力を鍛える体操の目的と原則
【Q】
高齢になってもトイレで排泄するためには、排泄に関する筋力を鍛える必要があると聞きますが、具体的には身体のどの部分を鍛えればよいのでしょうか。
【A】
意識がない場合や絶対に安静を保たなければならない以外、座位または立位(男性が小便をする)姿勢で排泄できるよう援助することが介護の仕事です。座位姿勢であれば、重力や腹圧を最大限に活かすことができ、気持ちよく楽に排泄できるうえに、残尿や残便の心配が少なくなります。
座位姿勢で排泄するためには、
(1)排泄しやすい姿勢を保つ「姿勢保持」
(2)排泄中や後始末の間に便器に座っていられる「座位の安定性」「耐久性」
が必要になります。そしてズボンや下着の着脱、座り直し、さらには移乗動作の際に上体を前に傾けたり、便器からお尻を浮かせたり、わずかな時間でも立つことができれば、介助を受ける側、介助をする側双方にとって楽になります。そのためには、重心移動や関節の柔軟性、筋力といった身体機能が必要です。
また、安定した座位を保ち、転倒や転落の危険を予防するには、便器・便座のサイズや形、移乗しやすい便器の設置法や手すりなど、環境整備も大切です。
体操の目的
1)座り直しや移乗動作には、バランス感覚や重心移動が欠かせません。そのためには、上体を傾けても倒れない筋力〔背筋群、腹筋群、臀筋群、大腿四頭筋、ハムストリングス〕と関節〔脊柱(体幹)、股関節、膝関節、足関節〕の柔軟性が必要となります。
2)お尻を浮かせたり立ち上がる動作には、より確実な重心移動と、体重を支えるための下肢全体の筋力が必要になります。特に、膝折れを予防するためには、〔大腿四頭筋(太もも)〕の維持・強化が必要です。また立ち上がり動作には、下肢および体幹の伸展活動が必要になります。体幹を伸展するためには〔脊柱起立筋〕や〔腰方形筋〕、股関節の伸展には〔大臀筋〕、膝関節の伸展には〔大腿四頭筋〕が作用します。
3)実際には、手すりや台を使って体幹を支えることになるので、手や前腕部で“体重を支える”ために上肢の筋力〔三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、大胸筋、前腕筋群〕も必要になります。また、関節〔肩、肘、手〕の柔軟性も大切です。
そして、実際の排泄場面で使って活かしていくことが、筋力や関節の維持・改善・強化につながります。目的と手段を間違えないようにしましょう。
出典:上野文規+下山名月監『介護を変えるDVDブック 新しい排泄介護の技術』中央法規出版、2009年