認知症の原因疾患の診断
【Q】
「アルツハイマー型認知症」などと診断されても、治らない病気であればあまり意味がないように思えますが、どのような必要性があるのでしょうか。
【A】
薬でできることは限られていますが、原因疾患を診断することで医療のできることがあります。
○経過が予測できる
原因疾患によって、予測される経過や予後(命の長さ)が異なります。認知症を引き起こす原因としては、70以上の原因疾患があげられますが、頻度が高いのは、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症(AD)、15%以上を占めるレビー小体型認知症(DLB)、10~15%を占める血管性認知症(VD)、前頭側頭型認知症(FTD)です。これらの疾患には、いずれも根本的な治療法はありません。
アルツハイマー型認知症では、その人がいつまで一人暮らしができるのかがある程度予測できます。
○改善・悪化予防できる原因疾患もある
認知症の約5%は治療できる認知症です。特発性正常圧水頭症では、髄液を抜くためのシャントをつくる手術を行うと、認知症や歩行障害、排尿障害が改善することがあります。また血管性認知症では、抗血小板薬や抗凝固薬などで脳梗塞の再発を防止することで、認知症の悪化を予防できる可能性があります。
○原因疾患に応じた身体症状や合併症を知る
アルツハイマー型認知症では、脳の中の運動野は重度になるまで障害されないのに対して、レビー小体型認知症では、中等度の時期からパーキンソン様症状と起立性低血圧(自律神経症状)、空間認知の障害によって転倒しやすくなります。
血管性認知症でも、パーキンソン様症状と仮性球まひによる嚥下障害などの身体症状が、認知症と並行して悪化します。早くから身体症状が現れるこれらの疾患では、アルツハイマー型認知症よりも予後は短くなっています。
○原因疾患に合ったケアやかかわり
アルツハイマー型認知症の人の行動には意味があり、十分な観察を行い、その行動の意味を理解したうえで接することが大切です。一方、前頭側頭型認知症の場合は、その人のやろうとしていることを妨げたり、好まないことを無理にやらせないことが重要です。逆に、決まったことを規則正しく行ったり、長時間単純な行為を繰り返すといった前頭側頭型認知症の特徴をケアに活かすこともあります。
出典:安西順子編『基礎から学ぶ介護シリーズ 気づいていますか 認知症ケアの落とし穴』中央法規出版、2012年