認知症の人に有効なリハビリ
【Q】
認知症の進行を抑えるために、リハビリとしていろいろなことをさせたほうがよいのでしょうか。
【A】
もの忘れが目立ってきた認知症の人に、家族がリハビリと称して計算問題をさせたり、「やらないとできなくなるから」といって日常生活で過剰な役割を負わせているケースをよく目にします。
本人は、今まで当たり前にできていたことができていないことを思い知らされ、混乱し、もどかしさを感じるようになります。また、失敗を笑われるのではないかと考え、自然とその行為を避けるようになり、さらに自発性が低下します。
認知機能の障害によってその行為ができない状況に陥っている認知症の人に、努力しても達成できない課題を与えることは、いかに自分ができないかということを思い知らせるだけです。リハビリと称してできないことをやらせるのは「百害あって一利なし」です。一定以上進んだ認知症の人には、むしろ安心して頼れる環境のほうが大切です。
それでは、認知症の人にとって好ましい刺激とはどのようなものでしょうか。
キーワードは「リズムのある生活と少しの刺激」です。たとえばウオーキングやジョギング、坐禅、歌唱の呼吸法などのリズム運動を5分間以上行うことは、脳のセロトニン神経を刺激して、脳を鎮静化させるはたらきがあります。
また、陽の光を浴びることは脳内のセロトニンを増やすので、同様の作用があり、昼夜逆転などの概日リズム障害に対しても有効だと考えられています。
それでは、適度な刺激とはどういうものでしょうか。その人のもつ能力で無理なく行うことができ、課題達成が自信になるようなアクティビティや役割について十分考えて選んでいくことが大切です。多くの場合、その人が人生の中で慣れ親しんだ趣味や仕事がヒントになりますので、事前にその人のライフストーリー(生活歴)を聞いておくことが、アクティビティを組み立てる時に役立ちます。
出典:安西順子編『基礎から学ぶ介護シリーズ 気づいていますか 認知症ケアの落とし穴』中央法規出版、2012年