多くの薬の服用が悪い理由
【Q】
高齢者は多くの薬を服用していますが、「あまり薬を飲ませすぎるのはよくない」といわれます。それはなぜですか?
【A】
なぜ多くの薬を摂取することが問題なのでしょうか。
一つには、薬の効果が必要以上に出てしまったり、逆にまったく効果が発揮されない可能性があるためです。薬を開発するときは、1剤で使用されることを想定しています。他の薬と混ぜて使うことを想定して薬を開発するのではありません。
複数の薬が体内に入ると、1剤のときと比べて、薬物代謝が変わる危険性があります。つまり“薬物の相互作用”の問題です。たとえば、多くの薬は肝臓で代謝されます。チトクロームP450という酵素で代謝されますが、同じ酵素で代謝される薬を併用すると肝臓の仕事量が増えて、薬が分解されるのに時間がかかることになります。その結果、薬の血液中の濃度が上昇しすぎて、副作用が出ることがあります。
逆に、ある薬がこの酵素を働かせやすくする(誘導)と、薬が早く分解されて効果が出ないこともあります。つまり、必要以上に効果が出たり、反対にまったく効果が出ないことが起こるのです。
「夜寝ないから」といって睡眠薬を使用すると、他の薬の影響もあり、薬が朝まで身体に残り、朝方トイレに行こうとしたときにふらついて転倒し骨折を起こすこともあります。高齢者は生体の予備能力が少ないので、薬物相互作用により電解質異常もきたしやすく、注意が必要です。電解質異常は不整脈を誘発したり、横紋筋融解症といった新たな合併症を起こす危険性があります。
また、薬理作用だけでなく、薬が多いことで飲み忘れも増えます。医師が処方したとおりに薬を内服することを「コンプライアンスがよい」といいますが、薬が多いと指示どおりに内服することが困難になります。すると、本当に必要な薬を飲まない危険性も出てくるのです。その結果、病気が悪化することもあります。
最近では、法律用語としてのコンプライアンス(法令順守)ではなく、患者自らが納得して薬を服用するという意味でアドヒアランスという用語が使われるようになりました。薬が多いこと自体が、アドヒアランスを妨げるのです。
もちろん、施設内で薬を管理する場合を考えると、多剤の高齢者が多いことで、間違って別の利用者の薬を飲ませたり飲んでしまう誤薬の危険性も出てきます。多剤は医療事故を生む素地を作るのです。
出典:介護専門職の総合情報誌『おはよう21』2008年3月号、中央法規出版