薬物作用のメカニズム
2012年02月09日 09:10
【Q】
不穏な患者さんに服薬、あるいは注射をしてしばらくすると落ち着きますが、その薬物が体内のどの部分に作用しているのでしょうか?
【A】
不穏な患者さんに使用する向精神薬は、服薬した場合も、注射した場合も、中枢神経(脳)に作用します。服薬と注射では、中枢神経に分布するまでの吸収の過程に違いがあり、効果を発現するまでの時間が変わってきます。
精神科で使用する薬は、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬などさまざまありますが、これらは中枢神経(脳)に作用しています。
投与された薬は、身体の中で吸収―分布―代謝―排泄という過程をたどり、向精神薬の場合は吸収されてから、そのターゲットである脳に分布します。脳という組織は生体にとって大変重要な組織であるため、多くの薬物は血液脳関門によって脳に移行しないようになっていますが、向精神薬はここを通過して、脳に作用しています。
脳内に移行した向精神薬は、その種類によって異なるはたらきをします。
患者さんが不穏になっている時というのは、脳内にある神経伝達物質ドパミンが過剰に放出した状態だと考えられています。ドパミンなどの神経伝達物質は、シナプス前神経
細胞から放出され、シナプス後神経細胞のドパミン受容体に結合して情報を伝達しているので、抗精神病薬がドパミンの代わりにドパミン受容体に結合することで、ドパミンが次の神経細胞に結合できなくなり、ドパミンの過剰な放出(不穏)を防いでいると考えられています。なお、脳にはたらく薬のほとんどは、この神経伝達物質による情報伝達の過程にはたらきかけて、作用を発揮しています。
出典:辻脇邦彦・南風原泰・吉浜文洋編『看護者のための精神科薬物療法Q&A』中央法規出版、2011年