利用者に対して親身になりすぎてしまいます……
【Q】
担当している利用者のなかに、自分の亡くなった母によく似ている方がいて、つい親身になって手助けをしたくなります。ほかのスタッフからは「やり過ぎではないか」と言われてしまうのですが……。
【A】
利用者に対して親身に対応することは、必ずしも悪いことではありません。利用者との信頼関係を構築する上でも、援助者の親身な対応が利用者の心を開くことにもなりうるからです。しかし、ある特定の人だけに親身になるとすれば、周囲には不公平感をもつ人が出てくるかもしれません。また、援助やサービスを提供することは、業務として行われていることですから、援助者としては、気がある利用者だから対応するとか、苦手な利用者だから対応しないというわけにもいきません。
利用者も援助者も人間ですから、気が合うとか、苦手だと思うこともありますが、援助者としてはどのような利用者に親身になりやすいのか、どのような利用者は苦手なのか、自分の特性を知っておく必要があります。これは、自己覚知といって、対人援助にかかわる専門職の基本姿勢ともいえます。援助においては、利用者を理解することも重要ですが、なによりも援助者自身を振り返っておかなければ、援助関係に大きな影響を及ぼしてしまうのです。
「援助者自身の亡くなった母によく似ている」など、援助者が気づかずに、自分の親族との関係性を利用者との援助関係に投影してしまうと、利用者と援助者という援助関係そのものが混乱してしまうことがあります。
このように、援助者が自分の過去の人間関係のうえで抱いていた感情を利用者に対して向けてしまうことを、精神分析などでは「逆転移」といいます。援助に当たる際に、自分はこの利用者に対して親身になりすぎているかもしれない、あるいはこの利用者を苦手に感じると思ったときには、自分一人で抱え込むよりも、同僚や上司など、周囲のスタッフと話し合い、自分の援助姿勢を振り返る必要があると思います。
出典:神山裕美・木戸宣子『対人援助・生活相談サポートブック』中央法規出版、2008年