認知症の人とのかかわり方 買い物編
【Q】
認知症の人が地域で暮らし続けるため、商店街の人を対象に買い物でのかかわり方について指導する機会があります。その場合のポイントについて教えてください。
【A】
買い物ではさまざまな行為や判断が必要とされるため、認知症による障害があると、他人からみれば不適切な対応とされる行動が見られることでしょう。そのためレジで小銭を探して手間どっているお年寄りには、「後ろが待っているんですから、早くしてくれませんか」と声を荒らげたくなることもあるかもしれません。
矢継ぎ早に言葉の語気を荒めて言うと、次の行動や言葉にロックをかけてしまいます。言葉に出さなくても、こうした場面はあちらこちらで起こっているかもしれません。これでは認知症の人にとって住みづらい町になってしまいます。接客のプロとして基本的に備えていなければならないかかわりが、認知症の支援にも共通した基盤として存在するのです。
それではどのような対応が望ましいのでしょうか。まず「何を買いに来たのか忘れた」という人に対しては、「肉ですか? 魚ですか? それとも野菜ですか?」などのように、思い出すためのヒントになりそうな言葉を一つひとつゆっくりかけていくとよいでしょう。
レジの場所がわからずに戸惑っている場合は、「私が案内するから一緒に行きましょう」とレジまで案内するのが好ましいですね。
認知症の人は、小銭を数えたり計算する能力が衰えてくることにより、金銭的な感覚が不自由になっていきます。そのため、小銭で支払うことが困難になり、混乱してしまうのです。こんな時こそ、ちょっとした支援が必要になります。40円という少ない合計金額で、それに見合う小銭を持っているのに1万円札を渡された場合の対応を考えてみましょう。
店員 「1万円ですか?」
後ろに並んでいた客 「おばあちゃん、小銭があるから店員さんに見てもらって取ってもらえばいいですよ」
これぞ救いの一手です。他の方法や手立てが示されると安心します。
お年寄り「え、そうかい?悪いね」
Iさんは店員にお願いします。
店員「じゃあ、ちょっと財布を見せてもらいますね。先に1万円を返しますね」
一つひとつていねいに誠実に振る舞い、安心感をもってもらうことが大切です。店員は1万円を渡し、財布の中の40円を取り出してIさんに見せて、確認します。
店員「それでは40円お預かりします」
Iさん「親切にありがとうね」
認知症の初期の段階で、まだどうにか地域の中でこれまでの暮らしを続けられている人は、うまくできなくなることが生じてくる一方で、まだできることがたくさんあります。
出典:NPO法人認知症フレンドシップクラブ『認知症の人のサポートブック』中央法規出版、2011年