利用者の価値観が受けとめられないのですが……
【Q】
援助者として、利用者の価値観を尊重し、受けとめる必要があると思っているのですが、あまりに自分の価値観とかけ離れているため受けとめきれません。どうしたらよいのでしょう?
【A】
仕事で出会う利用者のなかには、例えば不潔な部屋での不規則な生活を良しとする日常、要介護状態の親に対する冷淡なまでの子どもの態度、子どもの養育を放棄して平気な親など、自分の常識では信じがたい人々も時にはいます。専門職の援助関係形成の基礎として、受容と傾聴や個別化、非審判的態度などについて学んではいるものの、目の前の利用者の価値観をそのまま受けとめることはできないと、違和感や嫌悪感を感じる人も多いと思います。
受容とは、利用者をあるがままに受けとめることで、利用者の長所や短所、肯定的な感情や否定的な感情を含めて、道徳的な批判などを加えずにそのまま受け入れることです。そして、利用者は無条件に人格をまるごと受け入れられることで、あるがままの自己に直面し、自由な自己表現が可能になる、ということが受容の意義です。しかし、それは自分の価値観を変えてまで受け入れることではなく、自分の価値観と一致させる必要もありません。その人の存在、その人の生きてきた事実、そして、そのような人間の多様性を受け入れればよいのではないかと思います。
利用者の非常識な非道徳的生活に共感することはできませんが、そこに至った利用者の人生を聞き取り、善し悪しの判断はせずに理解することはできます。自分では想像もできない人生を歩み、自分では考えられない行動や思考をする人間の存在を、ありのままに受け入れればよいのです。援助における受容の意味を、再度振り返ってみましょう。
出典:神山裕美・木戸宣子『対人援助・生活相談サポートブック』中央法規出版、2008年