福祉の哲学を考える~
4.ソーシャル・インクルージョンへの理解を!
5.グローバリゼーションの中で見失いがちなもの……?
福祉は行政上の施策として存在するものであり、法に従って厳粛に執行すればよい、と捉えてしまうと、福祉の意味をなさないことも生じてきます。行政関係者が関与しているにも関わらず、自殺に至った例なども多く見られます。福祉は、専門家であるなしに関わらず、個々の支援者自身がしっかりとした考え方をもって臨むことが大切なのでしょう。そこに哲学が問われます。
そこで今週は、阿部志郎著『社会福祉の思想と実践』(中央法規出版)をもとに、福祉について考え方の基点をいくつかみてみたいと思います。
【Q】
ソーシャル・インクルージョンへの理解を!
【A】
「ソーシャル・インクルージョンは、社会的排除(social exclusion)の反対の概念で、排除されている人々を包括し、多様な人々の社会に統合していくことを意味する」もので、インクルージョンは「与えられる福祉ではなく、自らが作り出していく福祉、とくにトップダウン方式ではなく住民が主導する主体的参加型と深くかかわるといわれる」と阿部氏は述べます。
二度の大震災を経て今日、多くの人が自らの生きようを問うてボランティア活動に目を向けるようになりましたが、遠く離れた地域でのことだけでなく、自らが生活する地域社会において、マイノリティの有り様を問う視点も大切でしょう。特に今日、貧困だけが対象とされるのではなく、「心身の障害・不安」「社会的排除や摩擦」「社会的孤立や孤独」の問題群が、重複・複合化して現われるようになってきています。身近なところにある、目につきにくい事柄、こうしたものは避けられる=排除される傾向にあることを意識しておく必要があるのでしょう。
【Q】
グローバリゼーションの中で見失いがちなもの……?
【A】
移動の自由、移動手段の簡便化は、情報化と相まって、今日の社会の重要なキーワードとなっています。多くの日本人が海外で生活するようになり、多くの外国籍の人が日本社会に溶け込もうとしています。「グローバリゼーションは、異なった文化、思想、システム、実践とのふれあいから始まり、異質性の認識と受容にそのカギがあることは疑いの余地がない。社会福祉では、異質性を持つマイノリティへの価値観と、それを受け入れるシステムが適切であったかを問う」と阿部氏は展開します。
人類の歴史のなかで、異質性の排除、淘汰は繰り返し行われてきたことですが、それらは常にそれまでの社会にあったマイノリティ排除の系譜と一致して展開していきます。異質性への理解は、自らの社会の有り様をも変えるものであり、そこに福祉の視点との共通点があることを理解することが、グローバルな時代の福祉には欠かせない視点となることでしょう。
出典:阿部志郎著『社会福祉の思想と実践』中央法規出版