難聴の人とのコミュニケーション
【Q】
難聴のある高齢者とのコミュニケーションの工夫について教えてください。
【A】
老人性難聴の特徴
高齢者の聞こえの悪さの多くは、老人性難聴といわれるものです。私たちは、耳の奥の内耳といわれる部位で、人の声や動物の鳴き声、車の音などを聞きとります。内耳には音を感知する神経細胞がびっしり並んでいますが、年を重ねるにつれて細胞は消滅します。消滅すると音の感知が難しくなり、老人性難聴になります。老人性難聴にはいくつかの特徴があります。1つ目は両側性といって、両方の耳が同じ程度に悪くなります。
2つ目は、方向感弁別困難といって、どちらの方向から音や人の声が聞こえてくるのかがわからなくなります。私たちは、後ろから名前を呼ばれると、たとえ小さな声であってもハッと反射的に後ろを向きます。これを音源定位といいます。どこから声が聞こえたのか、私たちにはすぐにわかります。しかし老人性難聴の人は、声をかけられても「え?え?」とキョロキョロします。これは、音源定位ができないためです。どこに音や声の発生源があるのかがわかりません。
3つ目は、補充現象です。私たちは、小さい音から大きい音まで順に聞いていくと、徐々に「うるさい」という不愉快な気持ちが起こります。しかし老人性難聴の場合、その境界が非常に明確です。つまり、全く不快感がない音や声が、ある大きさから突然不愉快になり、我慢できなくなる現象です(表)。
特徴 | 対応 | |
両側性 | 左右の耳が同じ程度悪くなる | 前方に回り、口の形や表情を見せながら話す。 聞こえ方に左右差がある場合、聞こえやすい耳のほうから話かける。 |
方向感 弁別困難 |
どちらの方向から音や人の声が聞こえてくるのかわからない | 相手の身体に触れて、注意を促す。 相手が自分を注目しているか確認した後に話しかける。 |
補充現象 | 不快感のない音や声が、ある大きさから突然不愉快になって我慢できなくなる | 低くて太い、はっきりとした発音で話す。 |
特徴を踏まえたコミュニケーションの工夫
老人性難聴のある人とコミュニケーションをとるときは、その特徴を踏まえた工夫が必要です。
まず、左耳と右耳で聞こえに差がある場合は、少しでもよいほうの耳から話しかけましょう。両方の耳に差がない場合は、前方に回り、表情・視線・口の動きを見せて話します。手で身振りをしたり、物を見せたりするときは、手や物を顔の位置に近づけて動かします。口の動きや表情、手や物を同時に見ることができるので、話の内容が理解されやすくなります。特に、口の形をはっきり示すことは、認知症の進行にかかわらず効果があることが明らかになっています。
言葉は滑舌を意識し、大きく・ゆっくり・はっきり発音しましょう。声の高さは、高すぎると補充現象のため不快感が生じることがあります。低くて太い声のほうがよく聞こえ、不快感が少なくなります。
文字の理解や書字ができる場合は、筆記具とメモを用意しましょう。大切なキーワードを示すと、コミュニケーションの一助になります。
出典:飯干紀代子『認知症の人とのコミュニケーション 感情と行動を理解するためのアプローチ』中央法規出版、2011年