スタッフを非難する利用者との信頼関係が築けないのですが……
【Q】
自宅を訪問する約束をしていたのですが、利用者がそれを忘れて「そんな話は聞いていない」と怒ったり、スタッフが金を盗ったと非難したりするので、信頼関係が築けません。どうしたらよいでしょう?
【A】
利用者から理不尽な怒りを示されたり、非難をされたりするのは、信頼関係を構築する上でとても困ることでしょう。しかし、プロの援助者としては言葉で表されていることだけでなく、利用者が抱えているこれまでの人生の軌跡や老い、病い、障害についても目を向ける必要があります。「そんな話は聞いていない!」という言葉の裏には、覚えておきたくても記憶が保持できない障害、「お金を盗った」という言葉の裏には、物盗られ妄想が関係している可能性もあります。
目の前で生じている現象だけにとらわれてしまうと、怒られたり疑われたりすることに耐えられませんが、例えば、物盗られ妄想は主介護者など、その人が信頼している人に向けられる場合があるということを知っていれば、そのことが疾病や障害からくるものであると理解することができ、疾病や傷害の特性を考慮した対処のしかたも生まれます。
利用者の言葉の裏にはさまざまな思いや不安が隠れていることがあります。痛烈な言葉の裏には、それを発せざるを得ない何かが存在しているはずです。自分の物忘れをうっすらとでも自覚しているからこそ、忘れたことがあらわになる場面で攻撃的になってしまったり、忘れてしまうことへの不安を他者への怒りというかたちで表現してしまったりするのかもしれません。もしそうだとしたら、怒りをぶつけられる援助者以上に、ぶつけている利用者のほうが揺れ動き、不安に押しつぶされそうになっているかもしれません。
利用者に何が起きているのかを総合的に理解し、逃げ腰にならずに逆に半歩でもいいから近づき、支える姿勢を見せることが信頼関係につながっていきます。
具体的な対応方法をあげるとすれば、訪問前日と直前に電話を入れてから訪問する、家族や友人、民生委員などの利用者が信頼している人にも連絡をして、訪問を受け入れてもらえるように協力を依頼し、場合によっては同席してもらうように段取りをすることなどが考えられます。
出典:神山裕美・木戸宣子『対人援助・生活相談サポートブック』中央法規出版、2008年