コミュニケーションの距離
【Q】
人と接するときの適度な距離感について教えてください。
【A】
「対人距離」という言葉があります。これは、人と話したり活動するときの2人の間の距離を指します。相手が誰であるか、話や活動の内容が何かによって、適切な距離は異なります。
心理学者のホール氏によると、同僚同士が仕事をするのにちょうどよい距離は45~120cm、親密な間柄だと45cm以下といいます。それ以上接近すると、「ちょっと近すぎる」と不快感が生まれたり、無意識のうちに身体を引いたりするそうです。ちなみに45cm以下の距離のことを別名、恋人距離といいます。
高齢者と話をする時、特に個人的な話をする場合は、親密な雰囲気をもつことが出発点です。ですから、2人の距離は基本的に45cm以下、あるいは45~120cm、つまり密接距離(恋人距離)か個人的距離で話を聞くことをお勧めします。
45cmという距離は、親密な雰囲気を作り出すだけではありません。これほど近い距離にいると、相手に難聴があって聞こえにくい場合でも、すぐ耳元に近寄ることができます。また、文字に書いて伝える必要がある時にも、その場でさっと書いて目の近くに示すことができます。
コミュニケーションは、言葉や文字だけでなく、身振りや表情を総動員して行うものです。利用者に介護者の表情などをよく見せるためにも、密接距離か個人的距離が望ましいといえます。
また、覚醒度が低くてぼーっとしていたり、注意が散漫であちこち見て落ち着かなかったり、うつ的でテーブルに顔を埋めていたりする場合は、利用者の肩や腕、背中に触れながらコミュニケーションをとることが有効です。そのようなボディタッチが自然に行えるのも、密接距離か個人的距離です。
一方で、暴力や暴言、感情の起伏が激しい時は、あまり近づきすぎると、感情の高ぶりをあおってしまうことがあります。介護者も、あまり近くにいると知らず知らずに相手の感情に巻き込まれて伝染し、大声で感情的に話してしまいがちです。そのような時は、あえて少し離れたところで落ち着いて事態を眺め、対処法を考えることも必要です。
出典:飯干紀代子『認知症の人とのコミュニケーション 感情と行動を理解するためのアプローチ』中央法規出版、2011年