せん妄と認知症の違い
【Q】
認知症によく似た「せん妄」について教えてください。
【A】
認知症と似ていて非なるものに意識障害があります。しばしば興奮状態や幻覚体験を伴うことがみられ、せん妄とよばれています。高齢者によく起こります。
この意識障害は、なんらかの病気のために意識がボーッとしている状態です。ちょっと見ただけでは普通なのですが、とんちんかんなことを言ったり、もの忘れがひどくなったり、混乱して判断ミスを起こしたりします。話しかけても返事をしないし、自分の居場所もわからず、一見、認知症のような症状を呈するのです。
この意識レベルの低下であるせん妄の主な原因は、脳梗塞などの脳の循環障害ですが、他にもさまざまな病気で起こります。たとえば、心筋梗塞、糖尿病治療でのインスリン投与による低血糖症、睡眠薬の過剰投与、アルコール中毒などです。
特に高齢者の場合、肺炎などの感染症、手術のストレス、脱水症状などでもせん妄を起こすことがあるので注意が必要です。
認知症とせん妄の大きな違いは、認知症に比べてせん妄のほうが急に起こるという点です。昨日までテキパキしていた人が、今日、急に様子がおかしくなってしまったり、玄関で失禁してしまったりなど、急激な症状の変化がみられます。認知症の場合も、突然起こったようにみえることがありますが、むしろ変化は緩やかで、同じことを繰り返しながら徐々に露呈してくるというのが一般的です。また、せん妄の場合は、朝はまともだったのに昼頃におかしくなり、午後になってしばらくすると再びはっきりしてくるというふうに、1日のうちで症状が変動するのも特徴です。
失禁に関してですが、認知症の場合、多くは初期ではなく末期になってから起こります。一方、せん妄の場合は初めからみられるという点で異なります。
出典:長谷川和夫『認知症の知りたいことガイドブック』中央法規出版、2006年