嗜癖における精神療法
【Q】
嗜癖の治療として、精神療法が有効といわれているようですが、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
【A】
精神療法では、嗜癖へのアプローチとして、動機づけ面接法(motivational interviewing)が注目を集めています。動機づけ面接法はミラー(Miller,W.R.)が開発したもので、1970年代終わりから80年代にかけて行われるようになりました。動機づけができていないクライエントを動機づけることを主眼としていますが、これまでの先行研究では、動機づけ面接法を受けた介入群が、対照群と比較して優位であることが一貫して実証されてきました。動機づけ面接法以外にも、行動療法、認知療法、認知行動療法等が有効とされています。
また、日本独自の内観療法を取り入れている医療機関もあります。内観療法とは、吉本伊信が創設した精神(心理)療法で、集中内観の場合は研修所や病院等の一室に数日間こもって(外界との接触を遮断して)行いますが、日常内観は普段の生活の中で簡単に行うこことができます。その内容は、例えば自分が母親、父親、身近な人から「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を想起するというものです。そうした手続きを踏むことで人は自分を客観視することができ、自分がいかに人から大切にされてきたのか、それに対してどれだけの恩返しができたか、というかかわり(事実)を振り返ることができるのです。
集団精神療法であれば、「(自分の背中は見えないが)仲間の背中を見ることができる」という意味で、メンバーの均一性を高めた集団精神療法が効果的です。グループメンバーの語りを聴くことで気づきを得、否認を破り、真実の自分に直面し、それを受け入れていくことができます。
なお、セルフヘルプグループのミーティングも枠組みを設定し、集団力動を活用し、サポーティブ(治療的)であることを目指した集団プログラムという点では、医療機関が提供する集団精神療法と共通しています。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年