依存症の薬物療法
【Q】
アルコール依存症や薬物依存症の治療にあたっては、薬物療法があるのでしょうか? 教えてください。
【A】
精神科疾患の治療においては薬物療法が基本ですが、アルコール依存症や薬物依存症の場合は、それぞれ独自に用いられている薬物はあるものの、嗜癖や依存性そのものに対する薬物療法はほとんどないといってよいでしょう。対処療法として精神安定薬や睡眠薬等はしばしば使用されています。日本でアルコール依存症独自の薬物療法といえば、シアナマイド(シアナミド)やノックビン(ジスルフィラム)といった抗酒薬があります。肝臓中のアルデヒド脱水素酵素の働きを阻害してアルコールの分解を抑え、少量の飲酒でも極度の悪酔い状態を作るために(顔面潮紅、熱感、頭痛、悪心・嘔吐等の急性症状が発現)、酒が飲めなくなります。つまり、早く酔うために飲みにくくなるということです。仮に抗酒薬を飲んだ後に飲酒すると、自律神経系の大嵐のような症状に見舞われ、2度とそのような試みはしなくなると思います。というよりも、あらかじめ医師からその危険について十分説明されているので、普通の人ならばそのような冒険はしません。シアナマイドであれば毎日内服し、ノックビンであれば毎日内服か1週ごとに1週間の休薬期間を設けながら内服し、断酒の一助とします。強制ではなく本人の断酒意欲を確認した上で、予防的に(お守りとして)抗酒薬を用いるのが望ましいでしょう。
次に、薬物依存症独自の薬物療法といえば、欧米ではメサドン維持療法等が有名ですが、日本では用いられていません。メサドン維持療法(メサドン置換療法)とは、依存性の高いオピオイド依存症に対して、依存性の低いメサドンに依存対象(薬物)を切り替えていくというものです。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年