代理監督者の責任
2010年10月06日 10:10
【Q】
介護職が利用者にケガをさせてしまった場合、その事業所の責任者の責任も問われるのでしょうか。
【A】
民法は、不法行為の章で「代理監督者」の責任を規定しています。この「代理監督者」には2つの種類があります。一つは、責任無能力者について監督義務者に代わって監督する者です(民法714条第2項)。もう一つは、使用者に代わって事業を監督する者です(同法715条第2項)。
前者の代理監督者は、未成年者の親権者や未成年後見人、成年後見人などの監督義務者に代わって監督するもので、託児所や幼稚園、精神病院、学校、少年院などです。後者の代理監督者は、企業の工場長や現場監督、部課長が該当するといわれています。
それでは、介護現場ではどうでしょうか。例えば、介護施設において認知症等により判断能力の低下している利用者が、他の利用者を押して転倒させケガを負わせたとしましょう。判断能力を喪失している状態であれば「責任無能力」と判断される可能性があります。その場合、その利用者の入所している介護施設が「代理監督者」として責任を負う可能性があります。また、認知症の利用者の行動の見守りに過失があったとして、担当の介護職員が不法行為責任を負う場合には、介護職員を監督する立場にある部・課長などの上司が代理監督者として使用者責任を負う可能性があります。
しかし、介護事故の場合は、被害者に契約責任、不法行為責任、使用者責任による請求が認められるため、あえて迂遠な代理監督者の責任を選択することは少ないように思われます。
出典:吉岡讓治『職員と利用者を守る 介護現場の法律講座』中央法規出版、2010年