アルコール依存症
【Q】
アルコール依存症について教えてください。どのような考えをもってかかわっていけばいいのでしょうか?
【A】
アルコール依存症とは、身体的、精神的にアルコールに依存し、飲酒が人生や生活の中で最も大切なことになってしまう病気で、「喪失の病気」「否認の病気」「家族の病気」ともいわれています。「喪失の病気」とは、酒への異常な執着からまずは心身が蝕まれていく(健康の喪失)、また、飲酒のために職場を遅刻・欠勤するようになり、業務に支障をきたして職を失っていく(仕事の喪失)、さらに、問題飲酒行動から友人や同僚を失くし、挙句の果てに家族まで失い(関係性の喪失)、最後は命を落とすという“喪失”だらけの病気という意味です。
一方、「否認の病気」とは、アルコール依存症者は、自分がアルコール依存症であることをなかなか認められないということです。問題をまったく自覚していないのではなく、半分はわかっているもののそれを無意識的に認めようとしないことです。その理由は、「アルコール依存症者(アル中)」という言葉が、「意志の弱い人」「迷惑な人」「社会からの脱落者」といったイメージを招きやすいことと、依存症であると認めたら好きな酒が飲めなくなることからです。なお、以上は「第一の否認」で、以降「第二の否認」「第三の否認」がきます。
「第二の否認」は、「確かに自分はアルコール依存症かもしれない、けれども、自分の依存症は○○さんほどひどくはない」という否認、「第三の否認」は、「自分はアルコール依存症者かもしれないが、アルコールの問題さえなければ立派な人生を送れる人間だ」という否認です。第二の否認では、ほかのアルコール依存症者との違いを探すことで、第三の否認では、「アルコールさえなければ……」と自分を仮想することで、現実の自己に直面することを避けています。たまたまアルコールの問題を抱えてしまった自分であって、生き方の問題を抱えた(自立していない)自分であることは否認するのです。医療者、かかわる人間にとっては、これらの否認を打破することがアルコール依存症者への介入の第一歩となります。
否認という防衛を取り除くのは生半端なことではありません。したがって、本人が酒のために苦い体験をして、心から「苦しい」「断酒をしたい」と決心しなければ治らないと以前はいわれていました。これが酒による「底つき体験」といわれるものです。しかし最近は、ほかの病気と同様に早期発見、早期治療が重要で、重症化する前に介入するのがより望ましいとされています。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年