介護事業者の法的な責任
【Q】
利用者にけがをさせるなど、事業所が負う法的な責任について教えてください。
【A】
介護従事者が利用者との間で何らかのトラブル(紛争)に巻き込まれ、法的な責任を負う場合の内容は、主に「民事上の責任」と「刑事上の責任」に分けられます。このほか行政上の措置があります。
民事上の責任
◆契約責任
契約というのは、当事者間の約束(申込と承諾の合致)をいい、AがBに建物を売ることを約束するとAにはBに対して自分の建物を約束した期限までに引き渡す義務が生じ、これに対してBにはAに代金を支払う義務が生じます。これらの義務を実行することを「履行」といいます。
◆不法行為責任
私たちは、当事者間の約束である契約だけでお互いの関係性を形作っているわけではありません。自動車を運転中に、誤って人を轢いて怪我を負わせてしまった場合、自動車の運転手と轢かれた被害者との間には、通常何の契約関係もありません。しかし、うっかり人を轢いてしまった自動車の運転手に対して轢かれた人がその損害賠償を請求することを「契約関係がないから」認めないとなると轢かれ損となり、おかしなことになります。
このように、契約関係がない場合についても社会的義務として加害者に損害賠償責任を認めるのが不法行為法です。
刑事上の責任
介護従事者が、介護業務を行っていた際に不注意で利用者の生命や身体に損害を与えた場合、刑事責任を追求される可能性があります。適用される法条は、死亡の場合は刑法211条の業務上過失致死罪、傷害の場合は業務上過失傷害罪です。「業務上」とは反復の意思を持って行う場合を指します。したがって、介護福祉士やホームヘルパーの資格を有している場合は当然に、また、それらの資格を有していなくとも繰り返し介護業務を行うつもりで行った場合は「業務上」ということになります。
その他の責任
民・刑事上の責任以外には、行政上の措置があります。しかし、介護関係ではそれほど多くはありません。社会福祉士と介護福祉士については、社会福祉士及び介護福祉士法に登録の取り消し処分の規定があります。
出典:吉岡讓治『職員と利用者を守る 介護現場の法律講座』中央法規出版、2010年