ギャンブル依存症
【Q】
近年増えているといわれる、ギャンブル依存症について教えてください。
【A】
現在、ギャンブル依存症の単独診断で治療を受けている人は少ないかもしれません。ほかの嗜癖と合併していて、そちらが主要疾患名になっているケースのほうが多いと思われます。例えばアルコール依存症者が治療を受けて断酒するようになると、喫煙本数が増えたり、治療施設に通いがてらパチンコ店やゲームセンターに寄り道する頻度が多くなります。このような現象をモグラ叩きにたとえて、いくら叩いても(1つの嗜癖を治療しても)、ほかの穴からモグラが顔を出す(新たな嗜癖対象をみつけて依存するようになる)と説明しています。彼らはギャンブルの勝敗を通じて、アルコールの「酔い」に通じる心身の感覚を得ようとします。それが度を越すようになったら、つまりギャンブルに惚けて仕事に行かなくなったり、借金をするようになったら、「モグラがもう1つの穴から顔を出した」などと悠長なことはいっていられません。ギャンブル依存症は、ICD-10、DSM-IV-TRにおいてともに「病的賭博」と命名されています。
ギャンブルとほかの嗜癖との相違は、ギャンブルは現代のように消費者ローンがある限り、また資金調達のルートが確保されている限り、際限なくその行為が続いてしまう点です。アルコールや薬物であればいずれ身体が悲鳴をあげ、器である身体が壊れてしまったら、いくら酒や薬物を注ぎたくても注ぐことはできません。摂食障害も然りです。しかしギャンブルの場合は、本人の身体が完全に失調するようなことは稀なので、早期発見や早期治療が難しいものです。わが国には、少なくとも200万人のギャンブル依存症者がいると見積もられています。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年