「利用者本位」の範囲は?
【Q】
いつも利用者から「頼りにしている」と言われ、親身になって対応してきましたが、だんだん自分のできる範囲を超えてきているように思います。「利用者本位」と言いますが、どこまで支援すればよいのでしょうか。
【A】
利用者のニーズには、利用者が訴える主観的ニーズや、心身状況や家族状況からみえる客観的なニーズがあります。そして、利用者が必要と感じているニーズ(フェルトニーズ)と、援助者により判断されるニーズ(ノーマティブニーズ)があります。それらをどのように判断し、限られた時間と人材で対応していくのかが、専門職としての腕の見せどころでもあります。
利用者の訴えがイコール利用者ニーズであると早合点してはいけません。利用者の心身状況や家庭、近隣、交友関係、サービスの利用状況などをアセスメントすると、本人の訴えが必ずしも本来の利用者ニーズと同じではないことがあります。むしろ、本人が語らないところに本当のニーズがあったり、本人が気づかないところに別のニーズが隠れていることもよくあります。それは、援助者としての専門的なアセスメントによってみえてくるものです。利用者の主観的ニーズと客観的ニーズ、見えるニーズと見えないニーズをすり合わせる、そして、所属機関の目的や自分の役割を比較することで、支援すべきことの優先順位がみえてきます。
また、ニーズとディマンドの違いを理解することも大切です。ニーズは「必要課題」、ディマンドは「要求課題」ともいえます。ディマンドがすべて相談を受けた機関や施設で対応できるとは限らないので、ディマンドにとらわれずニーズを見極めて優先的対応をすることも求められます。所属機関の機能と自分の役割について、その限界と可能性をふまえ、支援していくことも大切なことです。そして、場合によっては別の機関との連携や、インフォーマルな人々とのネットワークによって対応する方法もあると思います。
利用者の訴えを傾聴するのは大切なことですが、それに振り回されずに、専門職としてのアセスメント力を磨いてくことが、本当の意味での利用者本位に支援につながります。
出典:神山裕美・木戸宜子編著『あれ?困った!どうしよう!? 対人援助・生活相談サポートブック』中央法規出版、2008年