自傷行為と嗜癖
2010年07月30日 09:20
【Q】
自傷行為についても、嗜癖の一部としてとらえることがあるようですが、どのように考えればよいのでしょうか?
【A】
精神科の患者が繰り返す「自傷行為」と、「嗜癖的自傷行為」との相違を確認しておきましょう。
「快」という心身の報酬が嗜癖の核にあるとすると、嗜癖的な自虐行為は一見、その条件から外れているような気がします。しかし、例えば通称「ボーダーライン」と呼ばれる境界性パーソナリティ障害の人に多いリストカットを考えてみましょう。身体を傷つけて痛みを感じることが報酬に相当するとは思えませんが、リストカットを繰り返す人にその理由を問うと一様に、血を見ると「ほっとする」「生きているという実感が得られる」「気持ちをリセットできる」といった答えが返ってくることから、心の報酬はあるようです。身体の痛みを伴うのに自傷行為を繰り返すのは、「ほっとできる」という報酬があるからで、したがってリストカットは「嗜癖」の1つとしてとらえることができます。
彼らは生きていることを感じるために自分の身体を傷つけます。また、本来直面しなければならないことをはぐらかすために、自傷行為で現実から逃避するのです。一方、例えば統合失調症の患者が呈する自傷行為の多くは、妄想や幻覚等に左右された結果であり、基本的に報酬系は関与しないと思われます。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年