生活習慣と嗜癖
【Q】
生活の中で習慣化してしまったものと嗜癖とは、違うものなのでしょうか?
【A】
生活習慣、正確にいうと、「度を越してしまった生活習慣」と「嗜癖」の相違をおさえておきましょう。
度を越して問題を起こす生活習慣の例として、生活習慣病があります。例えば、食べ過ぎやその結果としての肥満が主要原因である生活習慣病として、Ⅱ型糖尿病があげられますが、これと嗜癖行動である過食症との相違は何でしょうか。また、健康な人も晩酌という生活習慣が度を越せば二日酔いになったり、肝機能障害等を抱えることになります。これらとアルコール依存症との相違は何でしょうか。Ⅱ型糖尿病の患者にしても、食事療法や減量を指示されたところでそう簡単に体重コントロールができるわけではありません。健康診断で肝機能障害と節酒の必要性を指摘されても、自覚症状のない人が必ずしも飲酒量を100%コントロールできるわけでもありません。とすると、糖尿病と過食症、肝機能障害とアルコール依存症の相違は、度を越す程度の差でしょうか。その答えも間違ってはいませんが、最も確実な鑑別方法は、その行為が“強迫性を帯びているか否か”という点です。
合目的的ではなくなってきていること(「食べる」目的は生きるのに必要な栄養素を身体に供給することであり、「飲酒する」目的はリラックスしたり、和んだ雰囲気を作ること)、目的を果たすどころか身体に支障が生じている点、意志だけではなかなかコントロールできない点は嗜癖と共通していますが、単なる食べ過ぎは、空腹感や食欲があって食べ過ぎているわけであり、身体が欲しているわけです。過食症の人のように、食べたくないのに食べているわけではありません。彼らは身体ではなく心が欲しているので、そのさまが「強迫的」です。一方、ついつい飲み過ぎて二日酔いしてしまう人や、それがたたって健康診断で禁酒を宣告されてしまう人は、原則、飲みたくて飲んでいます。飲みたくなくても飲まないではいられない、といった不自然さはありません。ただし、糖尿病でも肝臓病でも、進行して事態が深刻化しているのに、かつ、病気の重篤性や摂生の必要性を十分承知しているにもかかわらず、危険な生活習慣を繰り返すとなると、それはもう立派な「嗜癖行動」といえるでしょう。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年