アディクションと嗜癖
【Q】
最近、アルコールなどの依存症者への援助にかかわりはじめたのですが、「アディクション」や「嗜癖」という言葉をよく聞きます。これはどのようなことを指すのでしょうか?
【A】
アディクション(addiction)を日本語に訳すと、「嗜癖」になります。嗜癖とは、広辞苑によると「あるものを特に好きこのむ癖」と説明されますが、もう少し厳密にいうと、ある対象(物質、もの、人、行為)に対して「のめり込む」、または「はまる」こと、加えてその「のめり込み」をコントロールできなくなることです。つまり、コントロール不全のために、「好き」「好む」の程度や、その結果としての行動が、常識を逸脱した状態をいいます。
最も身近なところでは、度を越して酒を飲んでしまう“アルコール依存症”があげられます。アルコール依存症者とは、酒にのめり込んでコントロールができなくなり、酒に溺れてしまった人のことです。厚生労働省が掲げている「健康日本21」では、適正飲酒量を「純アルコールで1日20g程度(ビールで中瓶1本、日本酒で1合、ウイスキーでダブル1杯)」とし、これを遥かに越えた量を飲む人、例えば1日にビールで中瓶6本、日本酒で6合、ウイスキーでボトル半分以上を飲む人を「大量飲酒者」と定義しています。アルコール依存症者とは、実はこうした大量飲酒者であるとともに(大量飲酒者であるというよりはむしろ)、“自分の意志で飲酒をコントロールできなくなってしまった人”を指します。
一方、「好きが高じてのめり込む」とは別に、もともとは人間の生命や健康を守るために、また生活や人との関係性をスムーズにするために習慣・慣習化されてきた行動が、すでにその目的とは関係なく、さらに本人の意志とも関係なく自動化し、自分では制御できなくなってしまった状況も同様といえます。“過食症”や“買い物依存症”は、生命を営むための摂食行動や、社会で生活するための購買行動が、本来の目的からはずれてその行為自体が目的化してしまったものです。
出典:松下年子・吉岡幸子・小倉邦子編『事例から学ぶ アディクション・ナーシング―依存症・虐待・摂食障害などがある人への看護ケア』中央法規出版、2009年