高齢者旅行の期間
【Q】
施設で利用者と一緒に旅行に行こうと考えています。ただ、それぞれ希望があるため、なかなか行き先が決まりません。何かよい指標はありますか?
【A】
旅行の行き先は旅行を企画するうえで最初に決める、あるいは決まってくる事柄ですが、職員と利用者との会話のなかで旅行の話になり、「どこに行きたい」と自然発生的に出てくることが多いようです。しかし現実には、施設の行事となると、状況によって変わってくることも少なくありません。
したがって、行き先を決めるにあたっては、アンケート調査を高齢者や家族に実施してみることをおすすめします。そして、旅行実施の目的や条件、行き先候補地について収集した情報を照らし合わせて検討し、決定していきます。
行き先の候補
近所
ポイントは、ちょっとした「演出」です。非日常的な気分が高まり、「旅」の効果が増します。たとえば、ちょっとおめかしして近くのグルメレストランで食事をしたり、美術館での名画鑑賞はいかがでしょう。美術館によっては、おしゃれなレストランが併設されているところもあります。建物は広く静かで、バリアフリーの配慮が施されています。名画を観たあとで、食事やティータイムを楽しむこともできます。
自宅と施設(事業所)を往復するだけという高齢者にとって、非日常かつ魅力的な「旅」になると思います。
テーマパーク
大型テーマパークに行って、アトラクションやイベントを楽しむことも、魅力的なプログラムとなります。
東京ディズニーランドや大阪ユニバーサルスタジオなど、テーマパークならではのお土産もお楽しみポイント。家族へのお土産の購入は、旅の楽しみを倍増させてくれます。しかし、テーマパークによっては大変混雑する時期や入場規制のあるアトラクションがあったり、イベントによっては季節限定のものもあるので、事前の確認が不可欠です。
実施にあたっては、入場規制やバリアフリーの状況、救急対応など、テーマパーク側への確認が大切です。そのほか、水族館や動物園、フラワーパークなども、バリアフリーが充実したところが多くなっています。
温泉
高齢者に限らず、温泉は旅行に欠かせません。最近では、温泉地でなくても近郊で日帰り温泉、足湯など気軽に温泉が楽しめるようになりました。特に足湯は、介護者の負担も少なくおすすめです。
1泊旅行ならば、お好みの温泉の選択肢も広がります。宿泊施設によっては大浴場、露天風呂、貸切り風呂など多様な温泉設備を備えています。なお、温泉の成分(強酸性の鉄泉、硫黄泉、酸性泉など刺激の強い泉質)によっては高齢者の入浴は避けたいところもあるので注意が必要です。
体験もの
体験ものは、季節に関係なくできて、結果がすぐに現れます。高齢者にとっては、あまり手の込んだり時間のかかるものは敬遠されますので、単純な作業のものを選ぶとよいでしょう。
食べ物に関するもの、たとえばそば打ちやパン焼き、ピザづくり、大福餅づくりなどが人気のメニューです。
収穫体験
最近では車椅子でも収穫体験ができる場所が増えてきました。千葉県旭市の観光いちご狩り農園では、車椅子の方でも積み取れる1メートルの高さにいちご棚を設置しています。
また、群馬県川場村のぶどう園や片品村のりんご園では、ぶどうやりんごの木が元々低く(矮化木の高さを低く抑える栽培方法によります)、誰でも果実に手が届きます。ブルーベリーの木も1メートルほどの高さなので、その場で摘み取りながら食べることができます。
〈例〉
・春:いちご
・夏:ブルーベリー
・秋:さつまいも、だいこん、ぶどう、りんごなど
景観を楽しむ
「何かをする」「どこかに行く」という目的だけが旅行ではありません。日本は全国各地、車で1時間も走れば、丘陵地帯や緑濃い山麓にたどり着けます。広々とした山の連なりや黄金色の稲穂が揺れる田園風景など、高齢者はもとより、誰もに心のやすらぎを与えてくれるでしょう。
また、日本は海に囲まれている島国です。白砂青松の日本画的な景観、水平線に浮かぶ汽船と飛び交うかもめを鑑賞することで心がやすらぎます。砂浜を車椅子で移動することは難しいですが、貝殻拾いなどはよい記念になると思います。
歴史・文化を楽しむ
高齢者にとって、著名な神社仏閣、古き良き時代の面影を残す街並みなども、旅や外出の目的地として欠かせません。「なつかしい」は大切な「キーワード」です。訪ねて行く前に、高齢者から昔の話を披露していただき、計画の段階から一緒に楽しむことができる要素が強いのが特徴といえます。
出典:田中 義夫著『高齢者の外出・旅行サポートガイドブック』中央法規出版、2007年